天才ハッカーが巻き込まれる陰謀 IT業界の闇
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
コメディ仕立ての『Silicon Valley』や、80年代前半のハイテク企業の集約地だったテキサス州ダラスを舞台にした『Halt and Catch Fire』。近年、IT(情報技術)業界を描いた優秀なシリーズが登場していますが、現代のテクノロジー業界が抱える闇に鋭く切り込む新シリーズ『Mr.Robot/ミスター・ロボット』は、かつてない野心的で刺激的な内容が高い評価と人気を獲得しています。
主人公は、極度の不安症と恐怖症を抱え、人に触れられることを嫌う孤独なエリオット。サイバーセキュリティー・エンジニアとしては優秀で、会社では高い能力を発揮しています。一方、夜になると、天才ハッカーのビジランテ(自警団)として他人のありとあらゆる情報をハッキングし、法の目をかいくぐる犯罪者を密かに摘発しています。
ある日、勤務先の大口クライアントで世界的なコングロマリット企業E Corpが大規模なサイバー攻撃を受けます。その後、fsocietyというハッカー集団のリーダー、Mr.Robotと名乗る男が接触してきて、世界の消費者信用産業の70%を所有するE Corpを攻撃し、世界的な革命を起こすという彼らの計画に巻き込まれていきます。
人とのつながりの意味を問う
ダークでスリリングな心理サスペンスでもある本作のクリエイター、サム・イスマイルはインターネット会社を起業した際の経験から着想を得たと言います。エリオットはとりわけ大企業の収益のためにコントロールされているフェイスブックを嫌っていますが、これは数あるテクノロジーの中でも、人間関係を商品として扱うフェイスブックに嫌悪感を抱いていると語るイスマイルと同じ。そんなイスマイルが番組で提起する問題は、テック業界の腐敗・堕落とともに、人とのつながりとは本来どういう意味を持つのかということを深く考えさせるもので、非常に現代的かつ新味があります。
主演は、新鋭ラミ・マレック。目をギョロつかせて精神が不安定で複雑な人物を、独創的に演じてハマリ役です。Mr.Robot役には、ベテランのクリスチャン・スレイター。風来坊でうさん臭さもありつつ謎めいた人物を好演しています。
放送局のUSAネットワークは、『ホワイトカラー』などのゆる軽路線で成功したベーシック・ケーブル局。近年、人気シリーズの終了が相次ぎ、シリアス路線にシフトしつつありましたが、早くも当たりが出た格好です。スタイリッシュでシャープな作風に、クラス感のある映像世界はSF的な雰囲気もあり秀逸です。
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●今月のオススメドラマ
『THE FLASH/フラッシュ』
超高速移動を武器に悪と戦うニューヒーロー
若者を中心に人気の放送局The CWが、看板番組『ARROW/アロー』のスピンオフとして2014年10月から放送を始め、大ヒットとなっているシリーズが『THE FLASH/フラッシュ』だ。アローと同じく、DCコミックスの人気ヒーローであるフラッシュが主人公として活躍する。
幼い頃に母親を何者かに殺害され、父親が犯人として逮捕され投獄されたバリー・アレン。当時の捜査官ウエスト刑事に引き取られ、成長して科学捜査官としてセントラル・シティの警察で働いている。父の無実を晴らすべく密かに真相を探る中、実験室で粒子加速器が爆発。巻き込まれたバリーが長い昏睡状態から覚めた時、閃光のごとく超高速移動できる能力が備わっていた。バリーはその能力を使い、素顔を隠して"フラッシュ"として街の平和を守るべく様々な敵と闘う。
『ARROW/アロー』と世界観を共有し、本格的なクロスオーバーエピソードも登場。スピーディーなアクションシーンをふんだんに盛り込み、バリーが思いを寄せるウエストの娘アイリスとのロマンスから母親の死をめぐる謎や背後にうごめく陰謀など、王道の作りが安心して楽しめる。
主演のグラント・ガスティンは、『glee/グリー』で注目を集め、本作で人気を得てブレイク。共演は、ジェシー・L・マーティン、トム・キャバナーほか。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2015年10月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。