海外ドラマ最前線、15年下半期の注目作をピックアップ
日経エンタテインメント!
アメコミとダーク・ファンタジーが人気、大人の恋愛ドラマも新作
全米で近年、人気のジャンルなのがアメコミとダーク・ファンタジーだ。テレビ界でのアメコミの映像化は、2012年に放送がスタートした『ARROW/アロー』の成功を機にDCコミックスのヒーローものが花盛り。なかでも真打ちとして登場したといえるのが2014年から始まった『GOTAHM/ゴッサム』で、壮大なスケールと映画「ダークナイト」シリーズに連なるダークな世界観で、映画ファンも満足できる内容になっている。日本では、この夏にBD&DVDのリリースが始まった。
ダーク・ファンタジーでは、2011年にHBOで全米放送が始まり、ブームの火付け役となった『ゲーム・オブ・スローンズ』が存在感を放っている。架空の大陸を舞台に、七王国の玉座争いを描くアクション・スペクタクルで、ドラゴンや魔術が登場するファンタジーの世界観を持ちながら、歴史ドラマや政治ドラマの要素を併せ持つ大人向けの重厚な内容だ。全米では2015年5月から最新シーズンとなる第五章が始まっており、日本でも8月27日から初放送されている。
一方、女性向けでは大人の恋愛もののニーズが高い。このジャンルで、9月にDVDがリリースされる新作が、『デスパレートな妻たち』のスタッフが手がける『デビアスなメイドたち』と、英国の大ヒットドラマを米国でリメイクした『ミストレス~溺れる女たち~』。いずれもスキャンダラスな内容で話題を呼びそうだ。
『GOTAHM/ゴッサム』 新米刑事の奮闘を描くクライム・アクション
映画『ダークナイト』の舞台となったゴッサム・シティで起こる凶悪事件に、若き日のゴードン刑事が立ち向かうクライム・アクション。ダークヒーロー誕生までの経緯や悪役たちの誕生秘話といった知られざる物語を描く。
米国2大コミックス出版社のひとつであるDCコミックスが生んだ人気キャラクター、バットマン。70年以上にわたるロングランヒットとなった、この伝説のヒーローは、ティム・バートン監督の『バットマン』(1989)や、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』(2005)に始まる新3部作「ダークナイト」シリーズなどでもおなじみだ。このダークヒーローの誕生秘話をオリジナルストーリーで描いたのが『GOTHAM/ゴッサム』である。
舞台は、架空の街ゴッサム・シティ。地元の名士トーマス&マーサ・ウェイン夫妻が、幼い息子ブルース(デヴィッド・マズーズ)の目の前で何者かに殺害される。捜査にあたるのは、ゴッサム市警の新米刑事ジェームズ・ゴードン(ベン・マッケンジー)とパートナーでベテラン刑事ハービー・ブロック(ドナル・ローグ)。1人生き残ったブルースと対面したゴードンは、自らの境遇と重なるブルースと強い結びつきを感じ、犯人逮捕を約束する。だが、事件は予想に反して複雑なもので、真相にたどりつく道は険しいことをゴードンは痛感する。マフィアと警察の癒着、ギャング同士の抗争、腐敗した街にはびこる凶悪犯罪の数々。亡き父が検事長を務めていた街に、理想に燃えてやってきたゴードンは、平和を取り戻すべく日夜犯罪と闘う。
シリーズの軸となるのはゴードンで、新米刑事として赴任してくるが、映画『バットマン ビギンズ』で描かれているように将来的にはゴッサム市警のトップに上り詰める。そこに至るまでの過程を、本作ではオリジナルストーリーとして描いているわけだ。
ゴードンとブルースの関係に始まり、セリーナ・"キャット"・カイル、オズワルド・"ペンギン"・コブルポット、エドワード・ニグマらの若き日々も同時進行で描かれる。そこにマフィアの抗争が絡み、独自のゴッサム・ワールドを構築している。
米4大ネットワークのひとつであるFOXで、2014年9月より本放送がスタート。ノーランの「ダークナイト」シリーズに準じたダークで退廃的な世界観に個性的なキャラクターの数々、1話完結的なクライム・サスペンスの体裁を取りながらもファンタジーとリアリティーが絶妙に融合した物語は、まさに大人が楽しめるエンタテインメント。ニューヨークのロケーションの臨場感と、大掛かりなセットやVFXを駆使した映像世界は映画的スケール感もあり、コアなアメコミファンも納得のハイクオリティーに仕上がっている。製作総指揮は、『THE MENTALIST/メンタリスト』のブルーノ・ヘラー。全米では2015年9月からシーズン2の放送が予定されている。
『デビアスなメイドたち』 5人のメイドが暴く、華やかなセレブの秘密
ビバリーヒルズの豪邸で働く、ラテンアメリカ系のメイドの1人が殺された事件を軸に、メイドたちと雇い主たちのスキャンダラスな日常が繰り広げられていく、全米で人気のドラマが『デビアスなメイドたち』だ。『デスパレートな妻たち』のマーク・チェリーが企画、脚本、製作総指揮を務めているとあって、ミステリータッチのドラマとコメディが絶妙なバランスで展開するところは、『デス妻』の魅力を踏襲している。
パウエル家のメイド、フローラ(ポーラ・ガーセス)が何者かに殺されたところからドラマは始まる。ウエイターの青年エディ(エディ・ハッセル)が容疑者として逮捕され、事件は解決したかに見えたが、マリソル(アナ・オルティス)というメイドが新たに現れ、彼女はフローラ殺害事件を調べ始める。実は、マリソルはエディの母親で、息子が無実だと信じ、真犯人を探していたのだ。
一方、マリソルをメイド仲間として受け入れたゾイラ(ジュディ・レイエス)と娘のヴァレンティナ(エディ・ガネム)、ロージー(ダニア・ラミレス)、そしてカルメン(ロゼリン・サンチェス)も、それぞれメイドとして働く家や、プライベートで様々な問題に直面していた。雇い主の息子レミ(ドリュー・ヴァン・アッカー)に恋するヴァレンティナと、娘を心配するゾイラ。メキシコに残してきた幼い息子をアメリカに呼び寄せたいロージー。メイドをしながら歌手をめざすカルメン。彼女たちの恋愛や家族の悩みを取り上げつつ、セクシーな描写満載でストーリーが進んでいく。
5人とも美人でスタイル抜群なため、とにかく「誘惑」が多いのが見どころ。一番若いヴァレンティナは、メイドの制服を体にピッタリの超ミニにリメイクして、レミに好かれようとする。ゾイラは娘を心配しつつも、昔の恋人に気持ちが揺れることも。カルメンは「女の武器」を使って、同僚の男性に仕事を押しつける。優しいロージーは、妻から冷たい仕打ちを受けている雇い主のスペンス(グラント・ショウ)から好意を抱かれてしまう。そして、殺人事件を調べているマリソルも、パウエル家に出張して、そこの主人にわざとヒップをアピールして気をそらせたりする。セクシーすぎるメイドたちが、男主人を女の魅力でうまく操り、女主人とは必要に応じて友情を育み、決して雇い主に服従しないところが面白い。
2013年から全米で放送がスタートし、現在はシーズン3が放送されている本作。タイトルにある「デビアス」とは「正道をはずれた」とか「よこしまな」という意味。本作に登場するメイドたちは、雇い主よりも優位に立ったり、彼らと肉体関係を持ったりもする、美しく個性的なメイドたちなのだ。
『ミストレス ~溺れる女たち~』 アラフォー女性4人が陥るスキャンダラスな恋
それぞれにキャリアを持ち、別々の道を歩みながらも友人関係を続ける大学時代の友人4人。アラフォーになった彼女たちの恋愛模様を描くのが、『ミストレス~溺れる女たち~』だ。英国で大ヒットした同名ドラマをアメリカでリメイク。華麗なる復讐劇を描く『リベンジ』のロバート・サートナーが製作総指揮を、女子ドラマの大ヒット作『ゴシップガール』のK・J・スタインバーグが脚本を務め、原作以上にスキャンダラスな1作に仕上げている。
『セックス・アンド・ザ・シティ』や『デスパレートな妻たち』など女性4人が繰り広げるドラマは、ハズレがほぼない。美貌も地位もある女性たちの行動は大胆かつ予測不可能で、とにかく見ていて面白いからだ。『ミストレス』もまさにそんなドラマのひとつである。
敏腕弁護士のサヴァンナ、精神科医のカレン、不動産仲介業者のジョスリン、リネンショップを経営するシングルマザーのエイプリル。それぞれに多忙な日々を送っているが、忙しければ忙しいほど恋に溺れていく。サヴァンナは結婚しているが不妊に悩み、それゆえに同僚との不倫に走る。カレンも不治の病の患者と不倫するが、その彼が亡くなり、喪失感と罪悪感に苦しんでいく。そして、エイプリルの前には3年前に事故で亡くなった夫の愛人だった女性とその子供が現れ、困惑。加えて、サヴァンナの妹・ジョスリンは、初めて女性に引かれてしまい、レズビアンの女性と同居をスタート。
4人は悩みを抱え、友人に話すこともできず苦しんでいた。仕事で成功し、順風満帆に見えるが、実は誰もが陥る可能性のある恋の罠にハマっているのだ。その秘密と悩みを共有することから、ドラマは新たな方向へと進展していく。
中心人物のサヴァンナを演じるのは、子役から活躍してきたアリッサ・ミラノ。1985年に映画『コマンドー』でアーノルド・シュワルツェネッガーの娘役を演じて人気を高め、日本では歌手としても大ブレイク。1998~2006年にはドラマ『チャームド~魔女3姉妹~』で三女を演じ、女優道をひた走ってきた。カレンを演じるのは、ドラマ『LOST』のサン役が記憶に新しいキム・ユンジン。韓国映画『シュリ』などに出演し、着実にステップアップしてきた演技派女優だ。黒髪が美しいエイプリルを演じるのは、『セックス・アンド・ザ・シティ』へのゲスト出演で女優デビューしたロシェル・エイツ。絵に描いたような美女のジョスリンは、『シェイムレス 俺たちに恥はない』『グレイズ・アナトミー』などドラマへのゲスト出演が豊富なジェス・マッカランが好演。すでに名が売れている2人と、アラフォー女優として油がのってきた期待の女優陣がマッチしている。
『ゲーム・オブ・スローンズ 第五章:竜との舞踏』 七王国の玉座争いはさらに過激に、壮絶に
ジョージ・R・R・マーティンの大河ファンタジー『氷と炎の歌』シリーズを完全映像化したのが『ゲーム・オブ・スローンズ』だ。夏と冬が不規則に巡る架空の大陸、ウェスタロスにある七王国を舞台に、壮絶な玉座争いを映画以上のスケール感で描き、世界で一大ブームを起こしている。
これまでファンタジー作品といえばファミリー層向けが中心だったが、そのイメージを大きく覆した本作。ドラゴンや魔術が登場しながらも、歴史ドラマを彷彿とさせる重厚感、そして陰謀と策略が張り巡らされた政治ドラマや複雑に絡み合う人間ドラマの妙、生と死を強烈に浮き彫りにする大胆な描写は大人こそが楽しめる作品といえる。
登場人物が非常に多いのも特徴で、セリフがある登場人物が200人近くにものぼる。最初はあまりにキャラクターが多くて戸惑うかもしれないが、脇のキャラクターまでしっかりと描き込まれた濃密な人間ドラマの面白さに、あっという間に物語の世界に入り込んでしまうだろう。
HBOで放送がスタートした2011年以降、ピーター・ディンクレイジのエミー賞、ゴールデン ・グローブ賞ダブル受賞をはじめ、毎年各テレビ賞で高い評価を受けている事からも、このドラマのクオリティーの高さが見てとれる。
また、キャストが次々とブレイクしているのも、世界的な人気の表れだ。エミリア・クラークが『ターミネーター:新起動/ジェニシス』のサラ・コナー役、リチャード・マッデンが『シンデレラ』の王子役に抜てき。ジェイソン・モモアも2016年公開予定の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』でDCコミックスのヒーロー、アクアマン役に起用されている。
さて、気になる最新シーズンの展開だが、長らく謎に包まれていたマーテル家が第四章で登場。玉座争いを繰り広げる諸名家が出そろった。第五章では登場人物たちの心理にも変化が生まれ、それが新しい人間ドラマを生み出していく。懐かしいキャラクターが再登場したり、会う事のなかった登場人物がついに邂逅(かいこう)したりと、長くシリーズを見ていた人が感慨深く感じるエピソードも多いだろう。
だが、驚きなくしては『ゲーム ・オブ・スローンズ』にあらず。第五章はいよいよ存在感を増す、異形の者であるホワイト・ウォーカーとの死闘や、全米を絶叫させたシリーズ最大の衝撃が待ち受けているので、今から覚悟が必要だ。
(ライター 今祥枝、清水久美子、及川静、幕田千宏)
[日経エンタテインメント! 2015年8月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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