稼いだのはどれ? ハリウッド映画赤字・黒字ランキング
日経エンタテインメント!
コストパフォーマンスの良い映画作りのセオリーとはどんなものか。2010~15年夏にかけて公開されたハリウッド映画の全米興行収入から製作費を引き、「製作費を大きく上回って全米で興収をあげている=黒字」「全米での興収が製作費を大きく下回っている=赤字」ということを示す「赤字・黒字ランキング」を作成。コスパの悪かった映画と良かった映画を比較、コスパの良い映画作りのセオリーを引き出した。
赤字ランキング1位は『ジョン・カーター』。エドガー・ライス・バローズのSF小説『火星のプリンセス』の映画化だ。この小説は『火星』シリーズ1作目で全11作続いており、シリーズ化を狙っていた。だから製作費に2億5000万ドルを投入したわけだが、興収は7300万ドル止まりだった。
あの大スターでも大赤字
実は赤字ランキングでトップ10の大半を占めるのが製作費に1億7500万ドル以上を費やしたアクション大作だ。「シリーズ化を狙うアクション大作は巨額の製作費を投入するため、興収が伸び悩むと赤字が巨額になりやすい」といえる。ハズブロのボードゲームを基にした2位『バトルシップ』、人気ゲームを題材にした7位『プリンス・オブ・ペルシャ/時間の砂』、アメコミ原作を映画化した9位『ゴースト・エージェント/R.I.P.D.』、13位『グリーン・ランタン』もこのパターンだ。
赤字ランキングには人気スターの主演作もいくつか入っている。ジョニー・デップの『ローン・レンジャー』『ダーク・シャドウ』、トム・クルーズの『オール・ユー・ニード・イズ・キル』、ウィル・スミスの『アフター・アース』がそうだ。「人気スターの主演作=大ヒットが見込めそうなので、巨額の製作費を投入」するが、興収が伸び悩むと赤字になりやすい。
一方、黒字ランキング1位は『ジュラシック・ワールド』。製作費に1億5000万ドルかかっているものの、巨額の興収をあげたおかげで黒字トップとなった。
2位は『アベンジャーズ』。アメコミヒーロー映画で勢いのあるマーベル作品は、『アイアンマン3』『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』がトップ10入り、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』が18位となっている。マーベル作品の特徴は製作費が巨額なことで、『アベンジャーズ』2作と『アイアンマン3』が2億ドル以上、『ガーディアンズ~』が1億7000万ドル。「巨額の製作費をかけて、大きな興収をあげる」戦略だが、「並みのヒットでは物足りない」ことにもつながる。他のマーベル作品がトップ20内に入っていない結果がハードルの高さを物語っている。
逆に、やや抑えめの製作費でシリーズ3作全てが黒字トップ10入りを果たしたのが『ハンガー・ゲーム』だ。マーベル作品をはじめアクション映画は特殊効果のCG作成にお金がかかるため製作費がふくらみがちだが、『ハンガー・ゲーム』シリーズの製作費は7800万~1億3000万ドルだ。『ハンガー・ゲーム』同様、ヤングアダルト小説の映画化『トワイライト・サーガ』シリーズも黒字傾向で、3作目『エクリプス/トワイライト・サーガ』が7位、最終章2作が14、15位に入っている。
イーストウッドは節約上手
抑えめの製作費は『アメリカン・スナイパー』にもあてはまり、トップ10の中では最も製作費が低い。クリント・イーストウッド監督は製作費を抑える撮影方法を重視することで知られる。当初、同作はスティーブン・スピルバーグ監督が興味を示した。アメリカ軍とイラク軍、両方の視点から戦闘を描くことを主張し、製作費が1億ドルを超えそうだった。映画会社側では「製作費1億ドルでは赤字になるかもしれない」とスピルバーグ監督を断念。代わりにイーストウッド監督に白羽の矢を立てた。彼はアメリカ軍の視点からのみ戦闘を描くことで製作費を抑えた。
コメディ映画は、アクション映画に比べると低い製作費で作れるため、ヒットすれば黒字になりやすい。12位『ハングオーバー! ! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』、17位『テッド』は興収が2億ドル台とずば抜けたメガヒットではないが、低予算のため黒字となった。
(ライター 相良智弘)
[日経エンタテインメント! 2015年10月号の記事を基に再構成]
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