
今秋から映画やドラマで目を引くのは、国民的人気スターたちの“本気”の意欲作だ。
昨年、初めて企画・プロデュースに挑戦した主演作『ふしぎな岬の物語』がモントリオール世界映画祭で2冠に輝き、快挙が話題になった吉永小百合。今年は松竹120周年記念の山田洋次監督作品『母と暮せば』(12月12日全国公開)に主演し、原爆で亡くしたはずの息子と奇妙な生活を送る母親役を演じている。息子役には、嵐の二宮和也。吉永は原爆詩の朗読などで「戦争を語り継ぐ」ことをひとつのライフワークとしており、被爆地・長崎を舞台にした『母と暮せば』はそこに深くつながる題材。名女優の“本気”が感じられる作品になりそうだ。
日経エンタテインメント!が発表している「タレントパワーランキング」の男優部門で3年連続1位に君臨している阿部寛は、10月期のTBS系ドラマ『下町ロケット』に主演。『半沢直樹』『花咲舞が黙ってない』などの原作者・池井戸潤の直木賞受賞作をドラマ化したもので、阿部が演じるのは、町工場を継いだ宇宙ロケットの元技術者。『半沢~』をヒットさせたチームとのタッグで、ドラマの名門・日曜21時枠での放送。高視聴率に期待が高まるなか、こちらも本気が試されている。

一世代下の「O- 40」(40代)の俳優たちも忙しい。昨年、TBSとWOWOWが共同制作した『MOZU』に主演した西島秀俊は、その劇場版が11月に公開。10月期のフジ系ドラマ『無痛~診える眼~』(水曜22時)にも主演中だ。
日テレ系『エンジェル・ハート』(日曜22時30分)に主演中なのは上川隆也。『シティーハンター』で知られる北条司マンガの人気キャラ・冴羽リョウ役にふんすることで話題だ。ほかに来年、大河ドラマに主演する堺雅人、時代劇映画に初主演する阿部サダヲにも注目だ。
層の厚い「O- 30」(30代)世代の活躍も見逃せない。藤原竜也は、今秋以降2本の主演映画が公開。1本は『ちょんまげぷりん』で知られる荒木源の小説を原作とした冒険エンタテインメント『探検隊の栄光』。もう1本は、三部けいの人気マンガを実写化する『僕だけがいない街』(来春公開/ワーナー・ブラザース配給)。『僕だけ~』は実写化に先駆けてテレビアニメも放送決定。『DEATH NOTE』のようなマルチ展開のメガヒットに期待がかかる。



小栗旬は、『ギャラクシー街道』(10月24日公開/東宝配給)で三谷幸喜監督作品に初出演。来年は、主演した連続ドラマの劇場版『信長協奏曲(コンツェルト)』の公開も控える。また2016年のゴールデンウイークには、人気マンガを三池崇史監督が映画化する『テラフォーマーズ』にも出演予定だ。
そして今年、ヒットとなった『新宿スワン』や、『S-最後の警官-奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE』『ピース オブ ケイク』『天空の蜂』と4本の映画に出演した綾野剛は、10月期の『コウノドリ』で連続ドラマに単独初主演する。人気者それぞれの“本気”の演技に期待したい。
ブレイク確実な「ポスト」の5人
大勢の中から抜きんでて主要キャストになるには、王道のステップアップがある。次に「ポスト」や「ネクスト」という切り口で、期待の俳優たちを見ていこう。
今年後半から飛躍しそうな俳優を、現在の第一線の人気者と照らし合わせて見ていこう。

まず、女優で期待なのが、清野菜名と清水富美加。清野菜名は、キャスティングのおおずさわこ氏によると、「満島ひかりと黒木華を掛け算したような存在」。モデルの経験もある清楚で昭和的なビジュアルを持ちながら、アクション、バック転、殺陣が特技という一面を持つ。
一方の清水は、脇役の若手の出世も目立つ朝ドラ発。『まれ』では、ヒロインの同級生・蔵本一子役を好演した。認知度が上がり、『しゃべくり007』など、バラエティ番組にも呼ばれるように。屈託がなく、物怖じしないキャラクターで存在感を出している。
2人の共通点は、人気のクリエイターに好かれていること。清野は2014年公開の園子温監督によるアクション映画『TOKYO TRIBE』のヒロインに選ばれ、清水も13年、福田雄一監督でロングヒットとなった映画『HK 変態仮面』のヒロインに抜てきされたのが転機となった。今後も連ドラ、舞台など、複数の出演作が決定している。


男優では、フジ月9で奮闘した福士蒼汰に次ぐ、といわれる存在なのが、中川大志と坂口健太郎。中川は子役発。12年『家政婦のミタ』で注目され、『水球ヤンキース』など学園もので実績を積み、現在17歳に。坂口は、9月19日公開の『ヒロイン失格』、『俺物語!!』と少女マンガ原作の恋愛映画のイケメン役で引っ張りだこだ。
中川はローティーン女子向けファッション誌『ニコラ』、坂口は『MENS’NON-NO』と、人気モデルとしての側面も持つ。
「もう1人の福士」といわれてきた福士誠治も、30代ブレイクの兆し。NHK朝ドラ『純情きらり』(06年)から続く和のイメージで唯一無二の存在となっており、7月には『週刊文春』での艶やかな巻頭グラビアが話題に。スーパー歌舞伎II『ワンピース』では、エース役を務める。時代劇『オトコマエ!』でW主演を務めた盟友・斎藤工同様、大人の男として人気が高まりそうだ。
(日経エンタテインメント! 平島綾子、ライター 泊貴洋、内藤悦子)
[日経エンタテインメント! 2015年10月号の記事を再構成]