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 企業や自治体が社員・職員の孫育てを後押ししようと取り組みを進めている。福島県を地盤とする東邦銀行は4月、孫の育児をするために休む「イクまご休暇」制度を導入した。岡山県は今年度から、孫育て休暇を取得させる企業に助成金を支給する制度を始めた。定年延長などで働く祖父母が増えており、育児に関わりやすくすることで子育て世代を支援しようという狙いだ。

「今週はおばあちゃんが幼稚園の送り迎えをするからね」。東邦銀行新さくら通り支店(福島県郡山市)に勤務する鈴木常子さん(60)は5月18日から5日間のイクまご休暇を取り、公休と合わせて9日間、福島市の娘夫婦のもとで過ごした。

娘に代わって孫たちの面倒をみる鈴木常子さん

娘に代わって孫たちの面倒をみる鈴木常子さん

娘は5月7日に3人目を出産。鈴木さんは休暇中、車で長男(4)の幼稚園の送り迎えをしたり、買い物や食事の支度をしたりと、娘に代わって孫たちの面倒を見た。「一日一日があっという間に終わった」と振り返る。「第2子、第3子が生まれたときは、上の子たちの世話をする人手がほしい。イクまご休暇はそうしたニーズに応えた制度」と鈴木さんは話す。

イクまご休暇は未消化のまま翌年度に繰り越せなかった年次有給休暇を利用する。同行は繰り越せなかった有給日の累計は病気やけが、ボランティアに使うときのみ取得を認めていた。2015年度からは育児、介護を取得理由に加え、孫の育児でも利用できるようにした。上限日数は最大120日に倍増させた。出産に限らず、遠方に住む孫に会うときなどでも利用できる。

イクまご休暇制度をつくったきっかけは、50代の女性行員からの相談だ。東京に嫁いだ娘が第2子を出産した際、孫の世話を頼まれた。有給休暇は使えるが、職場への気兼ねがあり、なかなか取りづらいのが実情。退職も考えたという。「孫を持つ世代の行員はキャリアを積み、スキルを持つ人も多い。退職となれば貴重な戦力を失うことになりかねない」(戸田満紀子・職員活躍推進室長)。この結果、孫育てのための休暇制度創設に踏み切った。

同支店で災害復興住宅資金業務を担当する鈴木さんは「制度がなければ休暇は取りにくかった」と話す。制度化することで上司が部下に休暇の取得を勧めやすくなる利点がある。鈴木さんは支店長から「イクまご休暇を取ったらどうか」と打診され、申請したという。

イクまご休暇はこれまでに鈴木さんのほか、子会社の50代の女性嘱託社員が5月11日から12日間取得した。4月に娘が福島市で里帰り出産したのに合わせ、家事や長女の子守などで育児を手伝った。現在も「複数の人が取得を希望している」(石川淳一・広報・社会貢献室長)といい、これから取得する人が増えそうだ。

孫関連の休暇を制度化した先駆けは第一生命保険だ。06年10月に「孫誕生休暇」制度を導入した。3日間の特別公休で、公休と土・日曜日を合わせ最長で9日間の取得が可能だ。昨年6月から今年5月までの直近1年間で約900人が取得するなど、浸透している。

堺支社次長の吉田紀子さん(58)は長女の2、3人目の出産時に孫誕生休暇を取得。「普段、管理職として忙しく仕事をしており、子育てに協力することができない。子どもが困っているときに手助けすることができ、よかった」と話す。

孫休暇が注目を集めているのは、子育て世代の共働き増加などに伴い、孫と密接な関わりを持つ祖父母が増えていることが背景にある。

第一生命経済研究所が昨年11月、孫のいる全国の55~74歳の男女千人に対して調査した。孫の母親の依頼で、孫の面倒をみた経験がある人は祖父で59.8%、祖母で73.0%に達した。定年延長などで高齢になっても働く祖父母が増えている現状がある。厚生労働省は同11月、企業が仕事と育児の両立に向けた行動計画をつくる際の参考指針の中に、孫のための休暇制度の創設を盛り込んだ。

こうした動きを受け、自治体による孫休暇取得の後押しも広がってきた。岡山県は今年度、孫育て休暇を取得した企業に奨励金を支給する制度を始めた。就業規則などで孫育て休暇を定めている県内の従業員300人以下の事業所が対象で、従業員が1日以上休んだ場合に、5万円を支給する。

福井県は今年度から県内企業を対象に、社員が就学前の孫を預かるため休暇を取得した場合に、10万円を支給する制度を新設した。休暇は連続10日以上の取得が条件で、連続5日以上を2回に分けて取るのでもよい。

孫休暇について、NPO法人孫育て・ニッポンの棒田明子理事長は「母親一人が子育てを抱え込むのではなく、祖父母が支援することができる。その意味で良い制度だ。さらに男性の育児休暇を取りやすくし、家族皆で子育てができる環境を早く整えるのが望ましい」とみる。

(大橋正也)

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