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トロッコで行く黒部峡谷、電源開発の歴史を体感 北陸鉄道紀行(上)

2015/6/15

 北陸新幹線の金沢までの開業から3カ月。東京から2時間半で行けるようになった北陸は、意外にも「鉄道王国」でもある。映画でも有名な黒部ダム開発の歴史を体感できるトロッコ電車や日本の原風景ともいえる能登探訪の観光列車など、見どころや乗りどころが満載だ。この夏は新幹線で北陸「乗り鉄」の旅を堪能してはどうだろう。

■日本一深いV字渓谷を縫うように

北陸新幹線から黒部への旅は、富山地方鉄道の新黒部駅が玄関口となる

 東京から北陸新幹線の「はくたか」に乗り、約2時間20分で富山県の黒部宇奈月温泉駅に到着する。真新しい駅舎を出て徒歩5分の場所にある、富山地方鉄道の新黒部駅で宇奈月温泉行きローカル線に乗り換える。

 富山地方鉄道は首都圏の東京急行電鉄や西武鉄道、関西の京阪電気鉄道で活躍していた車両が今も走っている。鉄道ファンならずとも思わず懐かしさを感じる人もいるだろう。

 のどかな田園地帯を揺られながら走ること30分で「トロッコ電車」の愛称で知られる黒部峡谷鉄道の始発駅がある宇奈月温泉に到着する。ここから日本一深いV字渓谷を縫うように走る1時間20分の旅が始まる。

 トロッコ電車は大正から昭和にかけての黒部の電源開発の歴史抜きには語れない。吉村昭の小説「高熱隧道(ずいどう)」のモデルになった黒部川第三発電所(黒三)建設などのため資材や人員の搬送用に敷設され、1937年(昭12年)に欅平(けやきだいら)まで延びた。戦後の世紀の大事業といわれた黒部川第四発電所(黒四)建設の苦闘を描いた映画「黒部の太陽」でも三船敏郎さん演じる黒四建設事務所次長の「北川」がトロッコで黒三建設の現場を視察する場面が登場する。宇奈月駅前にある入場無料の黒部川電気記念館ではその歴史を短編フィルムなどで学べる。事前に立ち寄ればトロッコの旅がさらに楽しくなる。

 観光用の営業を始めたのは1953年。秘境、黒部峡谷を観光資源として活用したいという地元の要請を受けたものだった。今では観光客が電車で41のトンネルをくぐり、21の橋を渡り、黒部峡谷の大自然を手軽に楽しめる。

鉄橋の新山彦橋を渡るトロッコ電車

 冬季は雪に閉ざされ運休するトロッコ電車は、例年なら宇奈月から終着駅の欅平までが5月中旬に全線開通する。しかし今年は30年ぶりの大雪によるトラブルなどで、例年より約20日遅い5月下旬にずれ込んだ。

 欅平まで約20キロの区間を平均時速16キロで走る。「時速25キロを超えるとATS(自動列車停止装置)が働く」という担当者の説明を聞くと、小さくても立派な列車だと改めて思う。レールとレールの幅はナローゲージと呼ばれる762ミリで、新幹線の約半分。幅が狭ければ工期が短縮化され、敷設の効率が高まる。こんなところにも電源開発との関わり合いを読み取れる。

宇奈月駅でトロッコ電車に乗り込む

 欅平まで10駅。車内では富山出身の女優、室井滋さんのナレーションで新柳河原発電所や出六峰(だしろっぽう)、ねずみ返しの岩壁など沿線に広がるダム関連施設や名勝、奇岩の説明が流れる。普通車には窓がなく、黒部川に沿って向かい風を顔一杯に受けながら、欅平までの標高差400メートルを駆け上がる。本来は工事用の運搬車であるため乗降できるのは4駅だが、ぜひ途中下車したいのが黒薙(くろなぎ)だ。

黒部峡谷の秘湯といわれる黒薙温泉

 駅で降りて起伏のある山道を歩くこと20分の場所にあるのが黒部峡谷の秘湯と呼ばれる黒薙温泉だ。宇奈月温泉の元湯に当たる。日帰り入浴でも十分楽しめる。黒部川の支流黒薙川を渡ってくる涼風を受けながらのんびり湯につかると、日ごろのストレスも解消される。

 欅平にはビジターセンターをはじめ、猿飛峡や人喰岩、名剣温泉など訪れたい場所は多い。今年は冬季に発生した落石を取り除くのに時間を要しているらしく、5月下旬の時点では通行止めの箇所が残っていた。訪れる際は事前の確認が必要だ。

展望台へは工事用トンネルの線路脇を250メートル歩く

 トロッコ電車の旅はこれまでは欅平で終わっていた。今年から北陸新幹線の開業に合わせ、富山県と黒部市、関西電力、黒部峡谷鉄道、黒部・宇奈月温泉観光局が峡谷のさらに奥に分け入る「黒部峡谷パノラマ展望ツアー!」を始めた。黒部峡谷鉄道の小橋一志社長は「黒部峡谷の電源開発の歴史を肌で体験してほしい」と期待を込める。

 ツアーは欅平駅で専用列車に乗り換え、坑道を進む。黒三・仙人谷ダム建設のために1939年に建設された竪坑(たてこう)エレベーターで高低差200メートルを一気に昇り、工事用トンネルの線路脇を約250メートル歩いて標高約800メートルの展望台へ向かう。

展望台からは普段は見ることのできない絶景が広がる

 展望台からは富山平野からは見ることができない唐松岳などの絶景が広がる。6月下旬にはさらに遊歩道を歩いて北アルプスを360度見渡せるパノラマ展望台まで行けるようになる。宝塚歌劇団出身で「とやまふるさと使節」を務める女優の内田もも香さんもツアーに参加し「列車を乗り継ぎ、岩肌がむき出しで水がしたたり落ちるトンネルを進むのはわくわくする。テーマパークのアトラクションのよう」と感想を話した。宇奈月からの所要時間は約7時間で1日4回実施され、事前の予約が必要だ。料金は大人5000円だ。

■保守・工事用ルートのツアーも

 黒部峡谷の電源開発の歴史をさらに知りたい人にお薦めのツアーがもう一つある。県と関西電力が毎年公募する「黒部ルート見学会」への参加だ。黒部ルートとは欅平から上流の黒部ダムに至る発電施設の保守・工事用のルートのことをいう。

ツアーの終点、黒部ダムを見下ろす

 竪坑エレベーターからパノラマツアーとは異なるルートをたどる。「バッテリーカー」と呼ばれる上部専用鉄道に乗り込んで6.5キロの坑道を約30分かけて進む。中島みゆきさんがかつてNHK「紅白歌合戦」で「地上の星」を実際に歌った場所や、高熱隧道といわれる温泉湧出熱で車窓が曇る場所を通過して黒四に到着する。

 発電所を見学した後、工事用に建設されたケーブルカーであるインクライン、黒部トンネルを走る専用バスを乗り継いでダムに到着。欅平から黒部ダムまでの約18キロはすべてトンネルを進むことになる。

 いずれの乗り物も本来は資材や作業員を運ぶのに使うため、車内は狭く騒音もあり決して快適とはいえない。ただ戦前や戦後の高度成長期、人を寄せつけなかった黒部峡谷に踏み入り多大の犠牲を払いながらも電源開発に挑んだ先人の労苦をしのぶのにこれほど適した列車の旅はない。「黒部の太陽」や「高熱隧道」を事前に見たり読んだりしておけば、より実感できる。

 今年の黒部ルート見学会は11月10日まで34回実施され、今からでも応募は可能だ。参加無料だが、応募が定員を上回ることが多く、平均倍率は3~4倍だという。富山県や関西電力のホームページで詳細をチェックできる。

(富山支局長 吉田力)

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