焼き魚から焼酎まで カボスは大分の食卓の名脇役
「現在の花付きを見ると今年のカボスは大豊作になりそう」と満面に笑みを浮かべるのは同県豊後大野市で川崎かぼす農園を経営する川崎元助社長。約20ヘクタールの農園を営む県内最大級のカボス生産者だ。
露地栽培では例年8月後半から緑色の生果を、10月後半から11月までは黄色に色づいた「ゴールデンカボス」を出荷する。10~12月には生果に向かない加工用カボスを搾汁・冷凍し、カボスが収穫できない年末から春に解凍・瓶詰めして販売している。同社の100%果汁は割安なこともあって多くの固定ファンを抱えている。
大分市在住の料理研究家、高橋和子さんによると「カボスは酸味がまろやかで甘みもある点がスダチやレモンとの大きな違い」。クエン酸やビタミンCが豊富で食欲増進や疲労回復にも良い。「庭にカボスの木が3本あれば一家の1年分は賄えると言います」。高橋さんも旬のカボスを自宅で搾って保存し、料理に使っている。
カボスの全国での収穫量は2012年度で5500トン。このうち96%に当たる5300トンが大分県産だ。2番手の愛媛県でも180トンにすぎない。天候による変動はあるものの、大分県での収穫量は年5000トン前後で推移し、圧倒的なシェアを握っている。
カボスが大分に伝わった由来には諸説がある。同県臼杵市に残る言い伝えでは江戸時代の1695年に地元出身の医師が京都から持ち帰った苗木を植えたのが始まりという。その1本は1988年に枯れてしまったが、同市乙見地区にはその元祖木を接ぎ木した「元祖木2世」が残っている。昔は薬の原料などに使われていたという。
カボスが脚光を浴びたのはおよそ30年前の1980年代半ば。大分から始まった地域おこしの一村一品運動がきっかけだ。それまでは「店で買うというよりはお裾分けしてもらう地味な存在だった」(大分市の丸果大分大同青果)が、主力品種である「大分1号」が生まれ一気に普及した。
西暦 (年度) | 栽培面積 (ヘクタール) | 生産量 (トン) |
---|---|---|
1980 | 522 | 4300 |
1985 | 580 | 4710 |
1990 | 827 | 6200 |
1995 | 706 | 5410 |
2000 | 537 | 5330 |
2005 | 520 | 4890 |
2010 | 525 | 3623 |
2012 | 515 | 5300 |
大分での栽培面積は70年度に200ヘクタールしかなかったのが90年前後に800ヘクタールを超えた。その後は生産農家の減少などから下降線をたどり、現在は500ヘクタール台で横ばい状態だ。県内消費が増える一方、首都圏などの県外ではブランドイメージが定着せず、スダチの後じんを拝する。
そんなカボスに、ここに来て追い風が吹いている。ジェイエイフーズおおいた(同県杵築市)の清涼飲料水「つぶらなカボス」のヒットだ。発売は2001年だが、09年から始めた郵便局での通信販売が転機になり、人気に火が付いた。
さわやかな香りが評判を呼び、14年は104万ケース(1ケースは190ミリリットル缶30本入り)を売り上げた。15年は110万ケースの販売を見込む。「もっと作りたいが原料が足りない状況」(同社)という。
加工用需要の高まりを受けてカボス増産の動きも出てきた。川崎かぼす農園は今年初めに栽培面積を10%強増やした。09年にはハマノ果香園(同県国東市)が22ヘクタールの農園でカボス栽培に乗り出した。果樹の成長に伴い14年は280トンを収穫し「今年は350トンを予定している」(浜野光展社長)。成木がそろう18年には500トンの生産を見込んでいる。
生果としての知名度も広がってきた。サントリー酒類大分支店はご当地ハイボールとして「カボスハイボール」を提案。果皮を下向きにして香りのエッセンスを移す絞り方を紹介するPRを今年も展開する。
ほかにもカボスを使った飲料や焼酎があるほか、養殖飼料にカボスを加えた「かぼすブリ」「かぼすヒラメ」も登場している。
カボスが愛される理由を「料理の引き立て役として何にでも合う点」と料理研究家の高橋さんは分析する。「たっぷり使っても料理の主役である素材の味を損なわないのがいい。スダチやレモンではこうはいかない」
大分県は東京など大都市向けにカボスの売り込みを進める方針だ。カボスの活用範囲の広さが理解されれば、「関さば」「関あじ」に続く大分特産品に育つ日も遠くはないかもしれない。
(大分支局長 藤井利幸)
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