「人は見た目が…」 落語家も同じです
立川談笑
「助けて!きわめびと」(NHK)のロケ収録での話です。放送はこの先(6月6日の予定)なので差し支えない範囲で話をします。おっとご心配なく。VTRには盛り込めなかったけれども私が大事だと思う部分、お役に立ちそうな話をご紹介します。
場所は大阪。イケメンの村田くんは入社2年目の若者で、貴金属やブランド品の買い取りや販売をするお店を任されている、いわば店長さんです。来店客の多くは口が達者な大阪のおばちゃん軍団とあって、石川県出身の彼は翻弄されっぱなしの毎日です。観察をした結果、村田くんの最大の苦手は初対面のお客様だとわかりました。馴染み客ともなれば会話も弾みますが、初対面では打ち解けることができない。だからお客様を取り逃がすしリピーターにならない。
最初にお伝えしたのは、彼の見た目の印象についてです。身なりも接客態度もきちんとしている彼は当惑していました。
ということで、ここからは私なりの自己演出・見た目の印象の解釈について話をします。「こんなイメージを自覚して自己演出すると、ビジネス上の付き合いでも役立つかもしれませんよ」、という提案です。そもそも「印象」は内面的で個人差もあるので、確たる正解はわかりにくいものです。しかも私は心理学者ではなく、あくまで個人的な経験からものを言ってるだけなので、軽い気持ちで読み流して下さい。ご自身で判断して何かのヒントにしていただければ。
私はまず、人に与える(人から受ける)印象を、対極的な2つ、鋭いイメージと鈍いイメージに分けてとらえています。
最初に鋭いイメージから。
鋭角的。細い。直線。速い。固い。ピカピカ。キラキラ。金属。冷たい。破裂。エッジ。刃物や氷を連想するような。そしてこれを人に当てはめるとこんな人物像になります。
「タイトなスーツに、靴は先がとがったエナメル。頭は整髪料でカッチリ固め眉毛は細く整えてある。メタルフレームの細身の眼鏡に、金属製のカフスや襟止めピン、シルバーのブレスレット。目は常に細い半開きで無表情だが、不意に鋭い視線を向けることがある。動作は機敏で、口調は滑舌の良い早口。直線的に速いスピードで歩く」
ドラマやマンガでは、頭の切れる悪役にありがちなキャラクターです。厳格で冷酷、神経質な雰囲気ですが、一方でかっこよくて仕事もかなりできそう。これは相手に緊張感や警戒心を与えます。
有名人に例えるなら、このイメージの代表は俳優の哀川翔さん。メタルフレームの眼鏡の端が尖ってそうです。頭髪もツンツンして、シャツの襟も大いにとがってます。金属アクセサリーもたくさん。かっこいいし。
今度はその反対の、鈍いイメージです。丸っこい。太い。曲線。遅い。柔らかい。温かい。綿。要するにさっきの逆です。これは手触りのよいぬいぐるみみたいです。同じく人物像にすると……。
「ゆったりスーツに、先の丸いスエード靴。頭髪はふんわりしていて眉は手入れをしていない。黒い丸眼鏡で、布製のカバンにはUFOキャッチャーのぬいぐるみが。いつもキョロキョロしていてよく笑う。動作は緩慢で、ゆっくり話をする。歩き方は遅い」
ゆるキャラタイプです。穏やかで寛容。親しみやすい雰囲気ですが、仕事は任せられない。相手に緩和の印象を与えます。
あえて例えるなら笑福亭鶴瓶師匠です。特に昔の。ふっくら体型にカーペンターズボン。まん丸眼鏡、ふんわりアフロヘアー。やわらかアイテムが盛りだくさんです。
いかがでしょう? もしもタフな交渉の場が多くナメられちゃいかん職業なら鋭いイメージを取り入れる。はたまた、営業職なら相手の心を開き信用してもらうために鈍いイメージを取り入れる。とはいえ、どちらか一方のイメージに偏りすぎるのも考えものです。総合的なバランスが大切ですし、そこはセンスの見せどころといえます。
私自身がイメージ効果を意識しはじめたのは、落語界に入ってすぐのこと。前座として高座に上がる、その客席の反応が時によって明らかに違ったのです。ある時は最初からしっかり聴いてくれる。また別な日は全く聴こうともしてくれない。この違いは何だ、と。試行錯誤してひょっとしたら……と行き着いたのが、髪型でした。整髪料でピタっとしていると、聴く。ふんわりヘアだと、聴かない。気のせいといえば気のせいなんだけれど、手ごたえがある気がしました。カッチリヘアではしっかりした安定感があり、ふんわりヘアだと頼りない不安感を醸し出していたのかもしれません。
さて、村田くんの印象でまず目立ったのは髪型です。額に垂らした前髪が目にかかる今時のヘアスタイルですが、なぜか暗い印象を受けます。細い眉は冷たい印象かも。さらに髪先が目に入るたびに不愉快そうに顔をしかめて素早く頭を横に振る癖がありました。会話のさなかに、無意識的に何度も。これはさすがに悪い印象です。細かいところではキーボードの操作が気になりました。お客様と二人きりの沈黙の中、高速タイピングの音がカタタタ、タタタタタ。勢いよくリターンキーがパンッ!カタタタタ、タタタ、……パンッ!空気がピリッと緊張するように感じました。
あくる朝、村田くんを訪ねるとさっそく髪型が修正されていました。修正はわずかですが、前日よりもすっきりと明るい表情に見えます。なにより、不愉快そうに頭を振るしぐさがなくなって、ずいぶん雰囲気が和らぎました。その後も若い彼の表情がみるみる変わっていく様子は圧巻です。変化のほどは、どうぞ放送をご覧になってその目で確かめて下さい!
(次回は6月3日更新予定)
<今後の予定>都内での独演会は6月13日、7月14日、8月18日、吉笑(二つ目)、笑二(同)、笑笑(前座)の弟子3人とともに武蔵野公会堂(東京都武蔵野市)で開く一門会は5月29日、6月27日、7月26日、8月28日の予定。
立川談笑HP http://www.danshou.jp/
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