ゴールデン・グローブ賞で作品賞 不倫が題材の野心作
海外ドラマはやめられない!~今 祥枝
不倫を題材にしたドラマは、世界各国で人気があるようですが、2014年10月よりプレミアム・ケーブル局Showtimeで放送がスタートした『The Affair』は、趣向を凝らした技ありの見せ方も優れた野心作。2015年のゴールデン・グローブ賞では、ドラマ・シリーズ部門の作品賞と主演女優賞を受賞したことでも話題です。
「情事」というタイトルの通り、ウエートレスのアリソンと、公立学校の教師で1作目の小説を出版したばかりのノアの不倫がドラマの軸です。アリソンは2年前に子供を亡くしており、悲しみを乗り越えようとしながらも夫コールとの間に距離を感じている。一方のノアは、妻ヘレンと4人の子供に恵まれ幸せな家庭を築いていますが、経済的に妻の裕福な両親に依存しており、高圧的な義理の両親と育ちの良い妻に対して鬱屈した感情を抱いています。そんな2人がニューヨーク州の避暑地モントークで出会い、関係が始まります。
面白いのは、数年後に別々に警察の尋問を受けている2人が、情事のいきさつを語っているという設定。例えば第1話の前半はノアが、後半ではアリソンが、それぞれに2人の出会いを語っているのですが、微妙に事実や起きた出来事が食い違っているのです。
男女の深層心理が浮き彫り
ノアが語るアリソンは、奔放でセクシーな女性ですが、アリソンが描く自分像は悲しみを抱えた孤独な女性。アリソンが語るノアは誠実そうに見えて妙になれなれしい男性ですが、ノアが描く自分像は善良な家庭人。どちらが先に誘ったのかなどを含めて、「出会って引かれあい不倫関係になった」という事実は同じでも、それぞれが語る内容はかなり違った印象を与えます。人間の記憶とはかくもあいまいで、また自分に都合の良いように書き換えられてしまうこともある。これは誰もが多かれ少なかれ、身に覚えがある真理ではないでしょうか。
2人の間に何があったのか、どちらの視点で語られているほうがより公平な真実に近いのか、視聴者は想像力を存分に刺激されて興味は尽きません。またアリソンとノアを含めて、アリソン側、ノア側から見た2パターンの人物像を巧みに演じ分けているキャストの好演も、視聴者を惑わせると同時に説得力があります。
ドラマの構造的には米ケーブルテレビのHBO(Home Box Office)の『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』を思わせるもので、語り手によって物語が変わる展開は芥川龍之介の短編小説『藪の中』方式。本作は単なるメロドラマに陥らず、男女間の物事の見方や考え方の違いや夫婦関係、階級や育ちの違いからくる差別や偏見などをきっちりと描いて、人間の深層心理を浮き彫りにしています。
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●今月のオススメドラマ
『24 -TWENTY FOUR- リブ・アナザー・デイ』
無人爆撃機テロを発端に衝撃の展開が待つ新作
2010年にシーズン8で番組は終了した『24-TWENTY FOUR-』。1日の事件を24話で描くリアルタイム進行で、国家を脅かすテロと闘うジャック・バウアーの超人的な活躍を描いた大ヒットシリーズが、約4年ぶりに復活したのが『24-TWENTY FOUR- リブ・アナザー・デイ』だ。
1日の事件を描く設定は基本的に同じで全12話となる今作は、シーズン8の最終話から4年後のロンドンから幕を開ける。逃亡者となり潜伏していたジャックが、突如姿を現わし、ナヴァロが率いるCIAロンドン支部の精鋭たちに捕らえられるが、彼にはある目的があった。同じ頃、ジャックの元恋人オードリーの父親でアメリカ合衆国大統領ヘラーがイギリスを訪問していた。ジャックの行動と大統領の訪問に、どんな関係があるのか…。やがて無人爆撃機をめぐる異常事態が勃発し、ジャックは世界が直面する未曽有の危機に立ち向かっていく。
ジャックを演じるキーファー・サザーランドは、過去のシリーズ以上にハードなアクションを披露して気合十分。また、これまでに登場したおなじみのキャラクターが多数登場。なかでも、ジャックの心強い味方だったクロエ(メアリー=リン・ライスカブ)が重要な役割を担っており、ジャックとのコンビネーションも絶好調だ。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)。
[日経エンタテインメント! 2015年4月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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