指の変形、原因はホルモンバランス
「腱鞘炎では変形しませんが、指が変形する病気はいくつかあります」と四谷メディカルキューブ(東京都千代田区)手の外科・マイクロサージャリーセンターの平瀬雄一センター長は話し始めた。
代表的なものは「ヘバーデン結節」と「ブシャール結節」。前者は第一関節(爪に近い関節)、後者は第二関節が変形する病気だ。両方を同時に発症することもある。ちなみに親指は第二関節がないのでブシャール結節はできない。
ヘバーデン結節:親指から小指のDIP(第1)関節変形。40歳以降の発生に男女差は無し。使い過ぎも原因のひとつだが、女性では使い過ぎとは無関係なことが多い。
ブシャール結節:人差し指から小指のPIP(第2)関節変形。更年期以降の女性に多い。女性では使い過ぎとは無関係なことが多い。
あまり知られていない事実だが、これらの原因は「使い過ぎ」ではなくて「ホルモンバランス」にある、そして、患者の多くは更年期や妊娠中の女性だと平瀬センター長は指摘する。
指の変形には「使い過ぎ」より「ホルモン」が影響
「これら手の病気はエストロゲン(卵胞ホルモン)と深い関係があり、妊娠時、産後、更年期に起こりやすい。もともとエストロゲンは腱や滑膜(関節を包む膜)の腫れを取る抗浮腫作用があり、生理前に体がむくむのもエストロゲンが減るため。閉経して急にエストロゲンが出なくなることで、腱や関節に炎症が起こりやすくなる。腱鞘炎にしても、実際は手の使い過ぎで起こることは少ない。9割は更年期の女性ですよ」(平瀬センター長)
つまり、ヘバーデン結節やブシャール結節といった「指の変形」は更年期障害の一種ということ。更年期障害というと一般に、のぼせ、イライラ、ゆううつなどの症状が知られるが、平瀬センター長によると、指の変形はこれらメジャーな更年期障害が起きない人に多く見られるそうだ。
指の変形~気になる治療法は?
治療法はテーピングや関節内ステロイド注射など。重症の場合は関節の固定や人工関節を入れる手術を行うが、いずれも30分から1時間程度、入院してもせいぜい1泊だという。
更年期を過ぎてしまえば新たに発症することはなくなるが、変形が悪化することはある。痛みもさることながら、将来、変形した指に悩まないためにも、症状が出たらガマンせず、早めに対処するべきだろう。
ちなみにヘバーデン結節で医療機関を訪れるのはほとんど女性だが、実は発症率に男女差はない。年を取ると男性も起こすのだが、なぜか男性はあまり痛みを感じず、放置できてしまうらしい。あるテレビ局が東京・巣鴨で60歳以上の高齢者に調査したところ、なんと36%もの人に「指の変形」が見られたという。
都市部では若い女性にも同じ病気が増加中
ここまで読んで、「な~んだ、更年期の病気なのね。若いわたしには関係ないわ」と思っているそこのアナタ。油断は禁物。
都市部では、妊娠中や更年期ではない若い女性にもこれらの病気が増えているらしい。生理がある年代では痛みだけで、関節の変形までは起きない。そのため医学的には「結節」ではなくて「関節炎」だが、原理は同じだ。
「妊娠・出産によってエストロゲンを消費していない女性は乳がんや卵巣がんになりやすいことが知られていますが、出産経験のない30~40代の女性は手の関節炎も起こしやすい。こういう人たちには低用量ピルがよく効きます」と平瀬センター長。
手の関節炎は普通の病院に行っても原因がわからず、「使い過ぎ」「年のせい」で片づけられてしまうことも多い。不調を感じたら、信頼できる専門医に診てもらおう。日本手外科学会のホームページを見ると、平瀬センター長をはじめとした全国の「手外科専門医名簿」が載っている。ぜひ参考にしていただきたい。
結局、「スマホの使い過ぎで指が変形する」という噂はガセだった。でも使い過ぎで腱鞘炎が起こることはあり得る。前回も触れた通り、スマホの使い過ぎで指や手首に痛みを感じたら、作業を中断して流水などで冷やすことを心がけよう。
この人に聞きました
四谷メディカルキューブ 手の外科・マイクロサージャリーセンター長。1956年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校留学後、東京慈恵会医大柏病院形成外科医長、埼玉成恵会病院形成外科部長などを経て、2010年より現職。日本手外科学会専門医。
(ライター 伊藤和弘)
[nikkei WOMAN Online 2015年3月21日付記事を基に再構成]
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