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原因は席の形状? 足の投げ出し、設計でマナー改善 編集委員 小林明

2015/3/20

足の投げ出しは改善するか?(「ゆりかもめ」車内)

 通勤列車の狭い車内で足を通路に投げ出して座るのはマナー違反。ほかの利用客の邪魔になるし、思わぬ事故につながりかねない。特に車内が混み合うラッシュ時にはぜひとも気を付けたい迷惑行為だ。

 ところで、どうして人は座席に座っている際、足を通路に投げ出すのだろうか?

 様々な研究の結果、車内シートの形状にこうしたマナー違反を生み出す“メカニズム”が隠れていることが分かってきた。今回は人間工学の視点から「足の投げ出し」の謎を解き明かしつつ、シートの設計・デザインによりマナー改善に取り組んでいる最新事情を紹介しよう。

■座席の形状が足を投げ出す原因?

ホームに入る「ゆりかもめ」車両(国際展示場正門駅)

 取材に訪れたのは東京の新橋・豊洲間を結ぶ新交通システム「ゆりかもめ」の本社(東京都江東区有明)。国際展示場正門駅を降りて東京湾に面したふ頭を歩くと、南方に本社ビルと車両基地(5.6ヘクタール)が見えてきた。

 「ゆりかもめ」は全自動無人運転で運行する都市型交通機関。開業は1995年11月で新橋からレインボーブリッジを経て豊洲まで14.7キロを約31分で結ぶ。沿線にはお台場、国際展示場、有明コロシアムなどがあるほか、新興の高層住宅も多く、利用客は徐々に増えているという。

 「現在、使用している車両は28本。最も古い7000系が10本、次の7200系が8本、そして最新の7300系が10本。7300系への切り替え時期なので通常(26本)よりもやや多い状態で運行しています」。車両課長の寺平宣雄さんが説明してくれた。

ゆりかもめの資料をもとに作成
ゆりかもめの資料をもとに作成

■クロス→ロングで輸送力増

 「クロスシート」から「ロングシート」へ――。

 「ゆりかもめ」の座席はざっくり言うと、こんな変貌を遂げつつある。

 「クロスシート」とは進行方向に対して垂直に配置された座席のこと。客が向かい合わせに座るので車窓から景色がよく見え、知り合い同士で空間を共有できる利点もあり、観光客には人気が高い。半面、通路部分が狭くなってしまう欠点がある。

ロングシート(進行方向に平行)
クロスシート(進行方向に垂直)

 一方、「ロングシート」とは進行方向に対して平行に配置された座席のこと。通路や立ち席のスペースが従来よりも広く確保できるので輸送力がアップする利点がある。クロスシートからロングシートに切り替えつつあるのは効率的な人員輸送を実現するのが狙い。ロングシート導入で輸送力が1割ほど増える計算になるそうだ。

■通路が狭く、「足の投げ出し」が問題に

 ところで長年、交通機関の関係者の頭を悩ませてきたのが通路への客の「足の投げ出し」。

 特に「ゆりかもめ」の車両幅は7000系や7200系では2.47メートル、7300系では2.55メートルとやや狭いのが特徴。たとえば東京地下鉄(東京メトロ)の東西線だと車両幅は2.85メートル、日比谷線だと2.83メートルで30~40センチ程度は小さい。だから、通路が狭い分、客が足を投げ出すとより深刻な問題を引き起こしてしまう。

三菱重工業の資料をもとに作成

■低い背もたれ→足の投げ出し?

 そもそも、なぜ人間は席に座る際、足を通路に投げ出しがちになるのだろうか?

 日本人の体格が向上してきたことや利用客の利己意識の高まりが背景にあるとされるが、さらに最近の研究から、シートの形状に大きな原因があるという意外な事実も分かってきた。

 新車両の開発に取り組んだ三菱重工業によると、「通常のロングシートは窓からの景色が見えやすいように背もたれが低い設計になる場合が多く、車両の減速・加速や揺れの際に足を前に出して踏ん張らないといけない構造になっている」という。

 人間は席に座る際、上半身の後傾角度(トルソー角)が15度は必要とされる。その角度が確保できないと背中と背もたれとの密着度が減り、足を前に出して体が揺れないように支えざるを得ない。これが「足の投げ出し」を招くメカニズムだ。

三菱重工業の資料をもとに作成

■マナー違反をデザインで防ぐ

 そこで昨年から導入した7300系では、座席の背もたれを客の肩の高さまで引き上げ、座面も足の膝が腰よりも9度ほど高くなるように傾斜をつけるデザインにした。より広い面積で背中を支えるので安定度が増す。しかも足を投げ出すとかかとが浮いてしまうので客は自然に足を引いて座る姿勢になる。

 「デザインの力」でマナー違反を防ごうという試みだ。

 座席の幅は新幹線のB席(3人掛け座席の中央)と同じ46センチ、奥行きは55センチと大きめにした。これだと隣の客と一定の距離を保ったまま快適に座れるし、客は両足をハの字に開きにくい。座面もお尻と太ももの形に合わせた3次元形状にしたので6人掛けのシートには必然的に6人で座るしかない。

 こうして客はデザインに導かれ、自然に行儀良く座るという仕掛けになっている。

膝が上がり、自然にかかとを引いて座る姿勢に(ロングシート)
奥行きが深いので足をハの字に開きにくい(ロングシート)
旧型車両では客が向かい合わせに座る(クロスシート)

■背もたれ高く、座面傾斜、3次元形状……

 「7300系の車両を2016年度末までに現在の10編成から18編成に増やし、足の投げ出し問題を今以上に改善したい」と寺平さんは言う。こうした様々な工夫が奏功し、今のところ7300系の車両で「足の投げ出し」に関する苦情が寄せられたことはないそうだ。2020年に開催される東京オリンピックでは沿線近くに競技会場が多く、多数の利用客が予想されるため、顧客サービスの一層の向上に努める考えだ。

 「足の投げ出し」はそもそも昔ならば社会のマナーとして周囲から注意されたし、客同士のコミュニケーションを通じてうまく解決してきた気がする。だが最近はトラブルや暴力事件に発展するケースも多く、デザインによる解決法に取り組むことになったらしい。

 背景には道徳心の低下やコミュニケーションの希薄化の影響もあるのだろう。少し寂しい気もするが、これも新たな時代の流れかもしれない。いずれにせよ、新デザインの「ロングシート」は今どきのトラブル解消法として成果を上げているようだ。

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