会社の中核をつなぎ留め 介護離職防ぐマネジメント

40~50代の多くが直面するのが年老いた親の介護。本人が無理を重ねて仕事を続けられなくなれば、貴重な人材を失う企業側にとっても痛手だ。介護離職をせずに働き続けるにはどうすればいいのか。働き盛りの社員を介護で失わないために企業はどんな手を打っているのか。先進企業の職場の知恵と工夫を探る。
働く息子や娘の親を預かる機会が増えている(神奈川県鎌倉市のデイサービス鎌倉古の花)

「『延長』をお願いできますか」。高齢者施設「デイサービス鎌倉古の花」(神奈川県鎌倉市)には最近、保育園の延長保育ならぬ「延長介護」の依頼の電話がかかってくる。電話の主はいずれも40~50代。年老いた親と同居し、日中は働いている人たちだ。施設を運営する介護事業操練所(同)の三上博至理事長は「うちは夕方5時までだが、延長で夜7時までお預かりすることもある」と話す。

総務省の調査によると、働きながら介護している人は推計290万人。うち40~50代が170万人だ。厚生労働省の調べでは2013年の介護離職者は9万3千人と5年間で倍増。会社の屋台骨を支える中核社員の介護離職をどう防ぐかは企業にとって喫緊の課題となっている。

「会社勤めはもう無理かも」。三菱ふそうトラック・バスの管理職、野沢陽子さん(55、仮名)は川崎市で独り暮らしの母(89)の体調が悪化した昨年暮れ、「退職」という言葉が脳裏をよぎった。

転んで歩行が困難になった母の世話は仕事を持つ姉と交代でこなしてきた。ところが昨年5月に狭窄(きょうさく)症で食べ物を飲み込めなくなり、12月には症状が悪化して精密検査を受けることに。脳に血がたまっていると分かり、野沢さんは1週間の有給休暇を取って看病した。

介護保険の認定は要介護2。ヘルパーに週1回来てもらっているが、「母を独りにしておけないし、私には7人の部下がいる。長く休んで職場に迷惑をかけられない」。

育児・介護休業法では社員が家族の介護のために通算93日まで休むことを企業に義務付けている。家族1人につき、原則1回しか取得できないが、国もようやく介護休業の分割取得をできるよう検討を始めた。

それに先駆けて三菱ふそうでは、93日までは必要に応じて1日単位で分けて取得でき、最長1年まで取れる。利用しないと2年で失効する年次有休も40日までなら積み立てて介護にも利用できる。野沢さんは「今月から月1~2回の在宅勤務を始め、単発の休暇などを利用しながら両立したい」と話す。

75歳以上の人口が2千万人を超える25年に備え、介護休業を取得できる期間を最長1~3年に独自に延ばす企業もある。だが社員の間では「長く休むと戻る場所はなくなる」(機械、52)、「介護休業は片道切符。怖くて利用できない」(金融、49)といった声も根強くある。介護休業の利用者(12年度)は約7万6千人と介護をしながら働く人の3%弱にとどまる。

人事マネジメントに詳しい大和総研の広川明子主任コンサルタントは「最長3年などに長く設定すると、会社も社員も社員自身が介護の担い手と思い込みがち。復職時期が読めなくなり、かえって仕事との両立を妨げる恐れがある」と話す。

そこで、さらに踏み込んで、介護に直面した社員が働き続けることを前提にした利用者目線の両立支援制度を整える動きが三菱ふそう以外でも出てきた。

アサヒビールは今年1月から、育児や介護を抱える社員向けの短時間勤務制度や年次有休の積み立て利用の対象に、要支援1~2といった介護が不要だが日常生活に助けが要る家族を抱えた社員も加えた。最長1年の介護休業も1日単位で分けて取れる。積水ハウスは14年4月から介護休業を最長2年に延ばし、休みを2週間から分けて取れるようにした。

1月下旬に開いた社員向け介護セミナーには100人近くが集まった(東京都千代田区の丸紅本社)

休暇や勤務制度の充実にとどまらず、社員が相談できる“駆け込み寺”を設ける企業も現れた。その一つが丸紅だ。看護師や介護福祉士などの資格を持つスタッフが相談にのるNPO法人「海を越えるケアの手」(東京・中央)と契約し、社員が海外赴任などを介護のためにあきらめないように支えている。

最大の特徴は働き続けるために、外部のどんな支援サービスをどう活用すれば乗り切れるかを伝授する点。海外赴任中に親が通院で付き添いが必要になっても、親の元に駆けつける人の手配から手続き代行など、必要に応じて社員に代わって親を支える。

海外駐在や出張をこなしてきた村田剛さん(仮名、44)は「関西で独り暮らしの78歳の父が昨年入退院した。予備知識なく、いきなり介護に直面すれば途方に暮れるが、相談窓口や会社が開く介護セミナーで情報収集できて助かっている」と話す。

丸紅が支援策に積極的に取り組むのは「海外で中核の仕事を担ってもらいたい働き盛りの社員が介護を理由に赴任できなくなるのは損失」(人事部の伊佐範明部長・執行役員)との判断から。40~50代の社員向けに11年に実施した社内調査では8割超が「今後5年以内に介護に関わる可能性がある」と回答。50代の社員の18%が「すでに介護に関わっている」と答えた。

働く側と企業側の双方に助言を続ける「海を越えるケアの手」の勝部一夫会長は「貴重な人材を介護で失わないために企業は社員に介護保険の仕組みやサービスの利用方法を早めに情報提供し、社員ができるだけ直接介護をしないで済むように支援することが重要」と指摘している。

(編集委員 阿部奈美)

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