会社が従業員のSNSを管理、節度をもって利用を
ご質問ありがとうございます。ご指摘のとおり、会社がSNSを監視することは大変難しい問題だと思います。

そもそも、どうして会社は神経質にSNSの利用を管理しようとするのでしょうか。社内情報の漏洩については、不正競争防止法の規定もあれば、それこそ就業規則で懲戒処分に該当するものとして規定されていたり、厳しい処分を設けて予防の体制はある程度出来上がっているはずです。
しかし、実際にはこれらの規定だけで全ての問題を防ぐことは出来ません。また、労働者によるほんの少しの出来心で会社の機密情報が漏洩されたり、労働者がSNSで自らの不適切な写真を配信したりすれば、会社の利益や信用はたちまち失われ、最悪の場合には倒産の危機に瀕してしまいます。このような事件を未然に防止するためのやむをえない方法が、今回のようなアカウント届出制につながるのだと思います。
会社には企業秩序維持権という権限があり、企業秩序維持のため必要かつ合理的な指揮命令を労働者に下すことができます。しかし、この権利も企業の円滑な運営上必要かつ合理性なものであることを要し、かつ、労働者の私生活上の行為を規制することは企業秩序に関連性のある限度においてのみ認められます。
一般的に労働者の私的なSNSと企業秩序とは関連性が薄いと思われるので、個人利用のアカウントに届出を強制して、一括管理することは必要性と合理性を欠くといえそうです。ただし、会社の肩書きを用いたプロフィールでアカウントを運用している場合には、SNSを利用している受け手が会社とアカウントとの結びつきを誤信したり、そこで発信されている情報が会社の情報と結びつけられてしまうこともあるかもしれません。そうだとすると、アカウントの届出制も企業秩序維持権から認められる余地もあると思います。
皆さんも、情報開示範囲をコントロールできるSNSを使用しているからといって安心してはいけません。インターネットは基本的にパブリックスペースです。パブリックスペースでは自分の行動がどのように人々に受け止められるかを立ち止まって顧みることが求められます。このことを意識しSNSを楽しんで下さい。
この人に聞きました

弁護士(第二東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業後、首都大学東京法科大学院から都内法律事務所を経て、アディーレ法律事務所へ入所。司法修習第63期。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。労働トラブルを解説した書籍『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』(ファミマドットコム)が発売中。『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。
[nikkei WOMAN Online 2014年6月17日付記事を基に再構成]
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