2021/9/8

美咲 えっ!

安藤先生 余人をもって代え難い、とても希少価値がある能力を持つ人は別です。しかし多くの人は、現実には、いずれかの条件を優先させる代わりにほかを諦めています。たとえば、

・給料は高く福利厚生はしっかりした大企業の総合職だけれども、転勤がある

・転勤はなく勤務体系も自由な中小企業だけれども、給料はそれなりで福利厚生は少ない

といった働き方をしています。

労働条件というのは全体を総合評価して、魅力的かどうかを判断するわけです。そして松本さんと同じくらいの貢献度が期待できるほかの労働者が受け入れている条件よりも、どこかの面で高い条件を求めるなら、どこかでは譲ることも必要です。

美咲 やっぱり、希望は全部はかなわないんですね。じゃあ、働き方を調べる意味ってあるのでしょうか。結局は、企業の言う通りに働くしかないようにも感じてしまいます。

安藤先生 いいえ、調べる意味がないことはありません。なぜなら、先ほどの記入の際に注意点として挙げた「時間軸を考える」という点に注目すると、松本さんのライフイベントに合わせて働き方の希望は変わっていくことが予想されます。

自分にライフイベントがあって働き方を変えたいというときには調べておいたほうがいいことがあります。たとえば、会社にどのような制度があって、さらにその制度をほかの社員に気兼ねすることなく利用できる雰囲気かどうか。時代の変化に合わせて経営者が必要な制度を導入していく会社かどうか、などです。こうした実態を調べることは、松本さんの今後のキャリアにとっても、非常に大切です。

美咲 今後のキャリア……。

安藤先生 先ほど、「どちらか一方の希望がかなえば、どちらか一方の希望はかなわない」という話をしました。たとえば、会社説明会で「若いうちから仕事を任せる」などという話があれば、半面「残業や転勤も頻繁にある」のかもしれません。

松本さんも若いうちは、それでも大丈夫と思うかもしれませんが、年齢を重ねると残業や転勤をすることが厳しくなり、給料は下がるけれども転勤のない仕事に変更したいと思うかもしれません。そうなったときに、社員の生活に合わせて対応してくれる会社かどうかあらかじめ見極めておく必要があります。

美咲 なるほど。会社説明会での説明ひとつとっても、自分なりに解釈して理解しておく必要がありますね。

すべての働き方の希望がかなうわけではないけれども、自分なりに志望する企業の働き方を調べていきたいと思います。まずは、納得して就職先を決めたいですから。

安藤先生 その通りです。転職はもちろんできますが、最初に入社する会社はとても大切です。多くの人は未経験者として就職して、研修などもありますが、実際に仕事をこなすことを通じてスキルを身につけていきます。そして若いうちの経験がその後のキャリアに大きな影響を与えるのもよくあることだからです。

美咲 わかりました。あの、もうひとつ質問してもいいですか?

(つづく)

安藤至大
 日本大学経済学部教授。2004年東京大学博士(経済学)。政策研究大学院大学助教授、日本大学大学院総合科学研究科准教授などを経て、18年より現職。専門は契約理論、労働経済学、法と経済学。厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会で公益代表委員などを務める。著書に「これだけは知っておきたい 働き方の教科書」(ちくま新書)など。

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