ミニ水牛、サル食うワシ 希少固有種の宝庫フィリピン

2021/8/25
ナショナルジオグラフィック日本版

葉の間を移動する昆虫の音に耳をそばだてるフィリピンメガネザル。ボホール島の森で撮影。フィリピンメガネザルの聴覚は、他のどの霊長類よりも鋭い(PHOTOGRAPH BY GAB MEJIA)

西太平洋に浮かぶ島の森には、異世界からやって来たような生きものが生息している。フィリピンメガネザルだ。

コウモリのような耳や吸盤のような指、巨大な金色の目は、まるでSF映画に出てくる生物のよう。しかし実際には、フィリピンメガネザルは霊長類で、人間の遠い親戚だ。

「本当に、木から木へとジャンプする小さなエイリアンみたいです」と話すのは、フィリピンを拠点に活動する写真家で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(協会が支援する研究者)でもあるガブ・メヒア氏だ。

フィリピンには7600を超える島々があり、驚くほど多種多様な生物たちの揺りかごとなっている。「生物の多様性に関する条約」によると、地球の植物種の5%がフィリピンに生育している。しかも、フィリピンで見られる生物の半分近くが固有種だ。

「フィリピンのどこへ行っても、自然に囲まれることでしょう」とメヒア氏は話す。「それぞれの島に、異なる種が生息しています」

島の生活は、種分化(1つの種が2つ以上の系統に分岐すること)を促す傾向がある。だが、この生態学上の楽園も脅威にさらされている。乱獲や、生息地の喪失および分断の結果、700種を超える在来種が絶滅の危機にひんしていると考えられている。さらに、今回のコロナ禍で、事態はより一層悪化しているかもしれない。保護団体によると、密漁や希少植物の違法採取が増加しているという。

一方、良いニュースもある。近年、フィリピンでは、こうした生物やその生息地の多くを保護する取り組みが急増している。豊かな生物多様性を誇る国立公園の観光は、持続可能な方法で行えば、こうした取り組みの支援につながる。地元の保護団体にお金が流れ、パトロールや土地の購入、さらには飼育下にある希少種の繁殖のための資金になるからだ。

コロナ禍で旅行はためらわれるものの、安全に旅ができるようになったら、生物保護に関心のある旅行者は、以下に挙げるフィリピンの4つの国立公園を訪れるといいかもしれない。ここでしか見られない、とても希少でカリスマ的な野生動物4種を見ることができる。

メガネザル、超音波でコミュニケーション

フィリピンメガネザル(Carlito syrichta)は「世界で2番目に小さい霊長類」と言われ、その大きさは手のひらに乗るほど。西洋の科学者に知られるようになったのは、1894年に初めて学術的に記載されてからだ。しかしあることが、最近まで謎のままだった。

研究者がフィリピンメガネザルを抱き上げると、遠吠ええするかのように口を大きく開けているのに、声は出ていないことがあった。耳をつんざく金切り声や、鳥の歌のような柔らかなさえずりなど、耳で聞こえる発声をすることはすでに知られていたため、この行動は特に奇妙だと考えられた。

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タマラオ、力は強いが、体は小さい
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