子を手塩にかけて育てる 絶滅危機のフィリピンワシ

日経ナショナル ジオグラフィック社

2019/3/29
ナショナルジオグラフィック日本版

世界最大級のワシであるフィリピンワシ(Pithecophaga jefferyi)。狩猟と森林減少で、フィリピンワシは世界自然保護連合(IUCN)から「近絶滅種(critically endangered)」に指定されている。動画は、野生でヒナを育てる様子をとらえた貴重なものだ。

6000以上の島があるフィリピンで、フィリピンワシが見つかっているのはルソン島、サマール島、レイテ島、ミンダナオ島の4島だけだ。フィリピンワシは、体重約4.5~8キロ、両翼を広げると平均2メートル近くにもなる大型の猛禽類だ。

通常、メスは2年ごとに1つ卵を産み、パートナーに助けられつつ2カ月近く抱卵する。ひながかえると、初めはオスが狩りの大部分を担い、主に母鳥がその餌を与える。フィリピンワシが食べる動物は、マカク属のサルから、ジャコウネコの仲間のパームシベット、ムササビ、コウモリ、鳥類、ヘビなどの爬虫類まで幅広い。子育ては1歳半くらいまで続く。

フィリピンワシは低地や中程度の標高にある原生林などに生息するが、生息地の多くが開発や伐採で切り開かれてしまっている。現在まで、フィリピンが失った森林は75%近く。フィリピンワシが巣をかける熱帯の硬い巨木は、違法伐採者たちの間で材木として珍重される。

フィリピンワシは身を隠すのも得意だ。「それゆえに調査が難しい」と話すのは、ミンダナオ州立大学で生物学と生態学を教えるカミル・コンセプシオン氏だ。だが、フィリピンワシは求愛と交尾の時期に最も見つけやすくなるという。特別な鳴き声を使ったり、飛翔を誇示したりするためだ。

「フィリピンワシについて分かっていることは少ないです。ほとんどがミンダナオ島で確認された営巣地にいる個体群か、飼育下での研究から得られたものです」。ダバオ市にあるフィリピンワシ基金で調査・保護ディレクターを務めるジェイソン・イバニエス氏はこう話す。フィリピンワシ基金は1987年に飼育繁殖保護プログラムのために設立され、その後は科学研究、啓発活動、文化を踏まえた資源管理プログラムにまで、範囲を広げている。分かっている営巣地間の平均距離から推定された個体数は、つがい400組ほどとみられるとイバニエス氏は話す。

フィリピンワシは、優秀な飛行家だ。力強く数回羽ばたいて空中に舞い上がり、滑空する。また、上昇気流に乗り、次いでゆっくりとらせんを描いて地上に戻ってくる。フィリピンの国鳥にして「鳥の王」と呼ばれているフィリピンワシだが、家畜を獲物にされることもあって、人々との関係は良好とは言えない。しかし「世界に類を見ない宝石」(イバニエス氏)と形容される貴重なワシの保護計画は、一歩ずつ進んでいる。

(日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2019年1月22日付記事を再構成]

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