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竜とそばかすの姫・中村佳穂 初演技で難しかったのは

『竜とそばかすの姫』 すず[内藤鈴]/ベル役

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

映画『竜とそばかすの姫』の予告が公開されるや「歌っているのは誰?」と大きな話題になった歌う主人公・すず/ベル。演じるのは、卓越した表現力で聴く者の心を射抜くミュージシャンの中村佳穂だ。本作で演技は初となる彼女が、心を閉ざし歌えなくなっていた女子高生すずと、仮想世界の歌姫ベルを見事に演じ分けている。

異ジャンルからの参加。どのような経緯で出演に至ったのか。

「以前、奈良の靴屋さんでライブをしたのですが、そこに細田守監督がいらしたのが最初の出会いです。夜中まで打ち上げして、せっかくなので何か1つぐらい質問したくて『エゴサーチってしますか?』と聞いたところ、『するの? 逆に。絶対しちゃダメ。君たち自体が素晴らしいアーティストなんだから、誰の意見も聞かなくていいんだよ』と言ってくださって。

絵コンテをいただいた瞬間、2年前の出来事と映画の内容が通じていて、『本気でおっしゃっていたんだ』と感じました。今回初めてオーディションを受けたので、やり方も演技も分からなかったけど、分からないなりに真摯に向き合い、ただただ楽しんでました。Zoomで監督に『(決まって)良かったね』と言われたときは、『キャラクターが私を選んだ感覚があるんだ』と感じて、だったら素直に、考え過ぎずお付き合いしようと。でもずっと、壮大なギャグでだまされているんじゃないか……とも思ってましたね、アフレコが始まるまでは」

「アフレコは普段、無音のなかでしゃべることがないので、最初は感覚が分からなくて。その日撮った動画をいただき、冷静に他のキャストの方たちとの掛け合いを見て『すずってこういう人なんだ』と理解していく感じ。監督は心の機微などを教えてくださるんですが、監督自身も演技のなかですずを探していて、それが見つかるととてもうれしそうな印象でした。

すずらしさを見つけられたのは、父親役の役所広司さんと収録したときです。役所さんは『分からないな、難しいな』と口パクにはまらない表現をされていたんですが、監督が『ご自分のテンポで』とおっしゃった後、すごく丁寧に小さい声で演じられて。それに合わせて娘っぽくしゃべったときに、『すずはこれだ!』と監督が快哉を叫ばれ、そこから全部録り直そうとなって。それぐらい役者さんは役に真摯に向き合い、その呼吸に合わせることで自分もさらに真剣に向き合えるんだと、すごく勉強になりました」

「もともと自分の知らないことに興味があり、うれしくなると歌う癖があって、収録の合間もハミングしたりしちゃったんですが、控え室では静かにしようと。だけど幾田りらさんがすごく素敵な方で、音楽のこととか話し掛けてくださって。控室がみんな一緒で、いろいろと気をつけながらも、けっこう和気あいあいと楽しかったです。

演じる上では、ベルのほうが難しかったです。私、普段からあまり舞台上でも変わらないので、演じるという感覚がなくて。それが細田監督に『ベルは世界のディーバで、大人のいい女なんだよ』と言われ、『難しいなー』と(笑)。分からなさ過ぎたので、パンプスと、服もちょっと良いものを買って、収録のときにそれらを身に着けて演じました」

エネルギーのある作品

「私自身、ずっと歌か絵かどちらをやるか迷っていて、19歳の頃、歌に決めたんです。高校時代はまだ何者でもないけど、何者にでもなれる可能性があって、でも何ができるわけでもない。そうした葛藤を細田監督はすごくよく描いていて、その頃の気持ちをずっとキープしているのがすごいなと。高校時代に初めて『時をかける少女』を見て、冷たい廊下、誰もいない校舎、体育館――全てに衝撃を受けて、自分と重ねながら何回も見ました。

『竜とそばかすの姫』は、まだ何が起きるか予想できませんが、そんな『時かけ』を見ていた私が、ここにいる。そうした夢みたいなことが、シンプルに生きてきた延長線上にもあるということを、今の10代のみなさんにも感じてもらえればうれしいです。

絵の力も本当にすごくて、舞台は高知県なのですが、特に川の描写が本当に素晴らしくて、実際そこに生きているような気持ちになれる。現実の世界では起きないこともアニメでは起こせる。それが音楽の力と相まって、すごくエネルギーがある作品です。何者でもなかった私がここにいる。ぜひ、見ていただけたらと思います」

(ライター 波多野絵理、日経エンタテインメント! 平島綾子)

[日経エンタテインメント! 2021年8月号の記事を再構成]

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