最適の表現を吟味 最悪の誤解を先回り

第5のルール「最もふさわしい言葉を選ぶ」は極めて当たり前に聞こえるだろうが、実はそれほど徹底されていない気がする。たとえば、「言う」という動詞にはたくさんの言い換えがある。割とプレーンな「述べる」のほかに「発言する」「しゃべる」「断言する」「漏らす」「におわせる」「口走る」「言い放つ」など、それぞれにニュアンスの異なる類語が存在する。どれを選ぶか次第で、伝わる意味合いも変わってくる。ビジネスシーンで発言者はこうした使い分けに、どこまで気を配っているだろうか。

先の新プロジェクトの例にあてはめると、ゴーサインを出すにあたって経営トップが「言い切った」のか、「吐き出した」のか、「つぶやいた」のかは、熱意をつかむうえで、かなりの違いになる。伝達役の課長が勝手にトーンをいじってはまずい。経営陣の熱量に関して誤解を生じかねない。やはり複数の情報源から経営トップの様子を聞き出して、適切な動詞をあてるか、最も安全な「言った」にとどめるかといった判断が必要になる。

裏が取れていない伝聞が混じると、さらに誤解の幅が広がりやすい。「社長は太鼓判を押した」「常務はかなり前のめりだったらしい」など、まことしやかな情景描写まで加わって、誤解が説得力を増す事態は避けるべきだ。「言う」という素っ気ない動詞なら、誤解を避けやすいが、トーンが加わった言葉を選ぶと、誤解の余地が大きくなりがちだ。役員会のムードをつかんでいないのであれば、色のない表現を選ぶほうが無難といえる。

第6のルールは「場を選ぶ」だ。プロジェクトリーダーの立場からすれば、チームに前向きな報告をしたいところだろう。メンバーを元気づけたい気持ちはわかる。しかし、自分の欲求や願望を勝手に織り込むのは誤解を広げる結果につながる。脚色や誇張は厳に慎むべきだ。

客観情報と主観情報をミックスしてしまうと、受け取り手は区別がつかなくなる。どうしても言いたい場合は、別の機会を設けよう。役員会の報告という場とは別に、個々の意見を交換する議論の機会を設ければ、混同を避けやすくなる。発言はそれぞれの場によって意義づけが変わってくる。異なる性質の発言を一度に詰め込むのは誤解のもととなりやすい。

第7のルールは「先回りの検算を怠らない」だ。自分の発言を聞き手側はどう受け止めるか。そこに発言者の意図とのずれは生じないか。この「聞き手目線」での検算を発言前に済ませてから声を出すという手順を心がければ、危うい発言を自制しやすくなる。異なる立ち場や価値観の聞き手が混在することを前提に、どの聞き手からも誤解を招きにくいような成り行きをシミュレーションするわけだ。

その際に望ましいのは、「最悪の曲解を試みる」という点だ。先の事例でいえば「役員会は条件付きでゴーサインを出した」と言った場合、条件がきついと読んで「それは事実上の棚上げでは」とうがった見方をする人が出る可能性がある。逆のポジティブ派からは「本当は無条件のOKだが、一部の反対派へのポーズとして形式的な条件を付けただけ。つまり、フリーハンドだ」と受け取られるかもしれない。発言者の期待通りに理解してもらえると期待せず、最悪の読み違えやねじ曲げを想定すると、意外な誤解リスクを発見できることがある。

こうした検算の結果、この伝え方にはそれなりの誤解リスクが伴うと先読みできたら、それらの誤解を露払いしてしまおう。先の例で有効な手の1つは「条件付き」の中身を明かすことだ。役員会の真意は条件のハードルが物語るからだ。手に入った、信頼度の高い補足情報を用いて、条件がついた事情を説明する手もある。伏せられたブラックボックス情報が多いほど、誤解や憶測の余地が広がってしまう。

だが、無理に誤解を避けるのではなく、「今はこれだけの情報しか示されていない」と認めたうえで、「分かり次第、すみやかに補足する。情報収集に努める」と、素直に手の内を明かしてしまうのも、悪くない態度だろう。過剰なサービスは誤解の原因になりやすいからだ。

検算でわかった誤解リスクを踏まえて、「あいまいな情報のせいで、様々な受け取り方が可能だと思う。まだ情報が足りないので、現時点での深読みは避けたほうがよさそうだ」などと、聞き手側の心理に配慮した言葉を言い添える方法もある。誤解を避けることに誠実な態度は、信頼感を高め、邪推も防ぎやすくなりそうだ。

どれほど丁寧に言葉を選んでも、誤解が生じるおそれは常にある。だからこそ、責任を持つ立場の人には誤解を減らすしゃべりテクニックを養ってもらいたい。今回取り上げた「7つの習慣」が誤解防止法のたたき台として役立てばうれしい。まずは自分から習慣づけたい。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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