神経科学と教育を研究する研究者はいたが、その内容は非常に難解で、一般の人には理解し難い。それを生かし、現場にどう落とし込むのか。そんな悩みを抱える中、ある神経内科医で、学校現場にも立つUCLAの大先輩との出会いが今の活動の礎となる。

「あなたは研究者になりたいの?現場で人の成長に貢献したいのなら、現場を見なさい。脳の新しい研究はあなたのパソコンに全てあがっている」と助言してくれた。

青砥さんは「いかに研究しても、その研究をどう現場に生かすかを本気で考え、仮説を立て、実行し、現場に合わせて修正していく人がいない限り、そう簡単に研究が全てを紐解(ひもと)いてくれるわけではない。そのドクターの言葉で、自分は研究者ではなく、神経科学をうまく活用して人の成長、そしてwell-being(幸福)の実現をお手伝いする。そんなスペシャリストになりたいと思うようになった」と語る。

世の中の神経科学の新しい論文は常にオンラインで確認できる。興味ある論文は毎日チェックしつつも、現場をもっと知らなければならない。日本に帰国後、「ボランティアでもいいから、神経科学の立場から教育をサポートさせてほしい」と、いろいろ学校に掛け合ったが、最初は相手にされなかった。

学校改革者の工藤校長と出会う 企業の研修支援も

UCLAは卒業したが、コンサル会社を辞め、単なるフリーター。信用を得るため、安易な気持ちで、起業したという。資金も戦略も何もない。とりあえず形だけ作った。当初は仕事もないため、英語の家庭教師などをしていた。しかし、会社というラベルがあるだけで、少しずつ興味を持ってくれる教師や企業人が現れるようになり、教育現場の改善や、神経科学の人の成長への可能性を知ってもらえるようになった。

青砥さんと横浜創英中学・高校の工藤校長(右)

その後、経済産業省の元官僚の紹介で、東京の麹町中学校で学校改革に取り組んでいた工藤勇一校長(現在は横浜創英中学・高校校長)と出会った。自律的な人材育成を目指す工藤校長は「青砥さんの脳科学の解説を聞き、これまで納得できなかった部分が氷解した」と話す。脳神経科学の教育へのあり方をテーマに共同研究を行った。今では多くの教育機関や教育者と、新しい学びのあり方などを踏まえて様々な取り組みをしている。

多くの有名企業で社員研修の設計や講座も実施している。メンタル面で悩んだり、自己肯定感が乏しかったりする若者は少なくないし、社会的に企業がwell-beingについて学ぶなど、創造性を神経科学的に解明する取り組みを進めている。

青砥さんは神経科学と人工知能(AI)の掛け合わせで複数の特許を取得しており、人の成長と幸せをサポートする技術応用を展開したり、新しい商品を開発したりしている。今や新規プロジェクトの要請が次々舞い込むようになった。

ちなみに社名の「DA(大文字)」は、やる気や好奇心、幸福感をサポートする神経伝達物質「ドーパミン」のこと。青春時代に失敗や挫折を人一倍経験した青砥さん。大いなる好奇心が原動力だ。今後も神経科学を活用した人の成長とwell-beingに関する様々な可能性を模索し続ける考えだ。

(代慶達也)

ブックコーナー ビジネス書などの書評はこちら