――河川が氾濫しそうになった場合の避難情報が、これまでの「避難勧告」と「避難指示」から「避難指示」に一本化されました。

「わかりやすくなったのはよい。これまでは『勧告』と『指示』でどちらがどのくらい緊急性が高いのか、わかりにくい面があった。ただ、防災担当者は避難指示をきついイメージで受け止めており、いきなり避難指示だと、経験やノウハウのない自治体はちゅうちょしてしまうかもしれない」

「さらに考えてほしいのは、避難情報を全国1700余りの市町村が出す点だ。市町村レベルで土木関係の職員がいない自治体が3割ある。首長に的確に情報を上げる技術職員がいないと、首長が避難の判断を誤ることがある」

「昔は市町村の発令でよかった。1959年の伊勢湾台風で災害対策基本法ができた当時は、気象庁ですら台風の位置が正確にはわからない時代だ。現場で雨や風の状況をみて判断した方が住民の命を守ることができた。『観天望気』の知識が地域に残っており、市町村が避難情報を出す理由があった」

「今は専門家集団である気象庁、国土交通省、内閣府防災が情報を持っている。情報を持っている国の機関が避難情報を出すべきだ。米国では連邦緊急事態管理局(FEMA)が避難情報の発令を担い、フランス、ドイツも中央政府の危機管理庁が出している。自治体の権限だからと国が逃げていては国民の命を守れない。かつては地域のコミュニティーがしっかりしていて避難の情報もすぐに伝わったが、今は地域の情報伝達力も落ちている。住民に迅速、確実に伝わる実効性のあるやり方が必要だ」

「もう一つ課題がある。避難情報は河川の水位を基準に出している。水位が上がるのはすでに雨が降っているからで、それだと雨の中、逃げろということになる。豪雨の中、逃げるのは命を捨てるようなものだ。雨が降らないうち、明るいうちに避難し、雨が降り出したり暗くなったりしたら外に出ない。こうした人の命を守る避難情報のあり方を突き詰めれば事前避難になる」

区外への避難を呼びかける東京都江戸川区のハザードマップ

「東京都江戸川区で防災を担当していたとき、水害の避難情報は(1)発災の24時間前に発令する(2)8時間前までに避難が終わらなければ、外に出ず、上の階に逃げる垂直避難にする――とした。オオカミ少年になるのは覚悟のうえで、事前避難を柱にした。台風や大雨は前もってわかるようになってきたのに、雨が降り出し、危機の直前にならないと避難情報が出ないのは制度の欠陥だ。情報を持つ国の機関が、雨が降り出す前に、空振り覚悟で避難情報を出すべきだ」

――水害の犠牲者はなくなりますか。

「水害は人的犠牲を避けられるようになってきている。水害から命を守るため大切なことが2つある。一つは自分の命は自分で守るという住民の意識だ。地域のことを的確に知り、自分で逃げる場所を確認しておく。避難情報が出る出ないにかかわらず、気象庁の予報をみて、そろそろ危ないのではないかと自分で早め早めに判断していく。自治体と競争するくらいのつもりで判断できるとよい。自治体は避難情報を出していないが、深刻になる前に、余裕のあるうちに逃げようと考えたい」

「もう一つは治水対策への投資だ。小泉政権で半減し、さらに民主党政権で半減した。その後の自民党政権でインフラ投資を増やしつつあるが戻し切れていない。東京、名古屋、大阪のゼロメートル地帯に逃げられる高台がどれだけあるか。防災は避難行動などのソフトを支えるハード整備と、ハードの機能を生かし切るソフト対策が車の両輪だ」

(編集委員 斉藤徹弥)

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