「アルコールは、胃腸など消化管に対して、常に悪い影響を及ぼすわけではありません。食事の前に『食前酒』を軽く1杯飲むと、食欲が増進され、胃腸の働きも活発になることが分かっています。胃腸の働きが良くなれば、浸透圧性の下痢になることはあまりありません。お酒には、消化管に良い影響を与えることと、悪い影響を与えることの両方があるのです」(大平さん)

確かに、しゃれたレストランや懐石料理のお店で、食前酒をいただくような会食をした場合、翌日お腹を壊すようなことはほとんどない。それでは、良い影響を与える場合と、悪い影響を与える場合の境目はどこにあるのだろう?

「大まかに言えば、良い影響というのは消化管の働きを活発にすることで、悪い影響というのは消化管の働きを抑制することです。これらはどちらも、アルコールが自律神経に作用した結果だと考えられます。この仕組みは非常に複雑なのですが、アルコールによって脳が『戦闘モード』になったり『癒やしモード』になったりすると表現すると分かりやすいかもしれません」(大平さん)

飲酒で脳が「戦闘モード」か「癒やしモード」に?

戦闘モードと癒やしモード……。まったく正反対のような気がするが、同じアルコールでどうしてそのような結果に分かれるのだろうか。

「戦闘モードとは、『やる気ホルモン』と呼ばれるドーパミンが多く放出されるような状態です。こうなると人間は、興奮、覚醒、意欲の高まりが見られるようになり、消化管の活動は抑制されてしまいます。一方、癒やしモードでは、『幸せホルモン』と呼ばれるセロトニンが多く放出され、気分が安定し、消化管の活動が活発になり、食欲も増進するのです」(大平さん)

ドーパミンとセロトニン

なんと! であれば、常に幸せホルモンが脳内で放出されるような飲み方をすればいいではないか。できませんか、先生。

「実は、ドーパミンとセロトニンは、どちらか一方しか放出されないというわけではなく、どちらも同時に出ています。それがやじろべえのように、ドーパミン放出のほうに傾いたり、セロトニン放出のほうに傾いたりして、どちらかの影響が強く出ることがあるわけです。やじろべえがどちらに傾くのかは非常に複雑で、その人のアルコール分解能力や、その日の体調、またお酒を飲んでいる環境なども関係してくると考えられます」(大平さん)

大平さんによると、しゃれたレストランで食前酒をたしなむような会食をしているときはセロトニンが優位になるのに対し、居酒屋で大勢の若者が飲み会をしているときにはドーパミンが優位になるようなイメージのようだ。これは確かに納得できる。

「大学生が居酒屋で、『今日は飲むぞ、おー!』と気合を入れているようなときこそが戦闘モードなのです。お酒を飲んでお腹を壊すのを避けたいのであれば、こういった飲み方はせず、高級料亭にいるようなゆったりとした気分で、食事を楽しみながらお酒を飲めばよいわけです」(大平さん)

なるほど、年がいもなく「今日は飲むぞ!」と盛り上がっていると、翌日お腹を壊すコースになってしまうわけか。気をつけなくては。そして大平さんによると、「血中アルコール濃度」も脳に対して大きな影響を及ぼすという。

「個人差はありますが、血中アルコール濃度が50mg/dLくらいまでは気分もさわやかでリラックスした状態。それから150mg/dLくらいまでは、気が大きくなったり、なれなれしくなったり、心拍数が増加したりします。さらにそれ以上の血中濃度になると、うまく歩けなくなったり、気分が悪くなって吐いてしまったり、突拍子もない行動をとったりします。そうならないよう、血中アルコール濃度が急に上がらないような飲み方をすることが大切です」(大平さん)

アルコールが中枢神経に及ぼす影響

出典:How Alcohol Effects Us: The Biphasic Curve Shows the Pleasure vs Pain Relationshipをもとに大平さんが作成したものを一部加工

血中アルコール濃度による脳への影響については、過去の連載でも取り上げている(参考「認知症・酒乱… 飲酒で記憶が飛ぶ人が抱えるリスク」)。血中濃度を急に上げないためには、食事と一緒にお酒を楽しんだり、水も一緒に飲んだりすればよい。

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大腸で吸収されないのに、なぜ大腸がんのリスクに?