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飲み過ぎで下痢… 腸にいい飲酒と悪い飲酒の境目は

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NIKKEI STYLE

日経Gooday(グッデイ)

飲み過ぎると翌日お腹を壊しやすくなると感じている酒ジャーナリストの葉石かおりさん。同様の声は、ほかの酒好きからも上がっています。果たして、アルコールは腸にどのような影響を与えるのか。腸内環境を専門とする、神戸学院大学 栄養学部栄養学科 准教授の大平英夫さんにお話を伺いました。

◇   ◇   ◇

「断酒をしたら、あれだけひどかった下痢が治ったんだよ」

風邪で体調が悪くなったのを機に、断酒をした友人からこんなLINEが来た。「一晩に焼酎ハイボールを軽く4~5缶空けるのは朝飯前」と言っていた彼は相当な酒豪。自宅で飲んで記憶をなくすのは普通で、万年2日酔いのような状態だった。

その彼の悩みが下痢。いわゆる水下痢(水分の多い下痢)で、聞くと「ほぼ毎日下痢」だったそう。そんなひどい下痢が酒をやめた途端、治まったという。ついでに痔も改善し、絶好調のようだ。

彼に限ったことではなく、「お酒を飲むとお腹を壊す」という酒飲みは意外と多い。実のところ筆者もそうで、飲み過ぎた翌朝は必ずと言っていいほどお腹を壊す。ひどいときはトイレにこもりっきりになってしまう。

ただの水やお茶を飲み過ぎてもこうはならない。ということはやはりアルコールが腸に悪さを働いているのだろうか? もしや腸内細菌にも影響しているのでは……。腸内環境に詳しい神戸学院大学 栄養学部栄養学科 准教授の大平英夫さんにお話を伺った。

アルコールが原因の下痢には2パターンある

先生、お酒を飲み過ぎた翌日にお腹を壊すのは、やはりアルコールが悪影響を与えているのでしょうか?

「その可能性は高いですね。アルコールを大量摂取すると、水分と電解質(ナトリウムなど)の腸管への吸収が不十分になり、浸透圧性の下痢が起きます。これが飲み過ぎた翌日にお腹を壊すことの正体でしょう」(大平さん)

大平さんによると、アルコールによる下痢にはもう1つパターンがあるという。

「もう1つのパターンは、長期にわたる過剰なアルコール摂取が原因で、消化機能が低下することによって起こる下痢です。このタイプの下痢は、便に過剰な脂肪が存在することから、別名『脂肪便』とも言われます。アルコールの長期摂取によって主に膵臓の機能が落ち、消化液や胆汁の分泌量が低下し、脂質やたんぱく質がうまく分解、吸収できないことで起こります。この場合、みぞおちが痛いなどの自覚症状が見られる場合もあります」(大平さん)

酒飲みであれば、浸透圧性の下痢は経験がある人が多いのではないだろうか。そして、できることなら脂肪便は経験しないでおきたいものだ。

ところで、飲み過ぎれば必ず浸透圧性の下痢になってしまうのだろうか。飲む量以外にも、何か関係してくるものはないのだろうか。腸にダメージをなるべく与えない、理想的な飲み方があれば知りたいところだ。

 「アルコールは、胃腸など消化管に対して、常に悪い影響を及ぼすわけではありません。食事の前に『食前酒』を軽く1杯飲むと、食欲が増進され、胃腸の働きも活発になることが分かっています。胃腸の働きが良くなれば、浸透圧性の下痢になることはあまりありません。お酒には、消化管に良い影響を与えることと、悪い影響を与えることの両方があるのです」(大平さん)

確かに、しゃれたレストランや懐石料理のお店で、食前酒をいただくような会食をした場合、翌日お腹を壊すようなことはほとんどない。それでは、良い影響を与える場合と、悪い影響を与える場合の境目はどこにあるのだろう?

「大まかに言えば、良い影響というのは消化管の働きを活発にすることで、悪い影響というのは消化管の働きを抑制することです。これらはどちらも、アルコールが自律神経に作用した結果だと考えられます。この仕組みは非常に複雑なのですが、アルコールによって脳が『戦闘モード』になったり『癒やしモード』になったりすると表現すると分かりやすいかもしれません」(大平さん)

飲酒で脳が「戦闘モード」か「癒やしモード」に?

戦闘モードと癒やしモード……。まったく正反対のような気がするが、同じアルコールでどうしてそのような結果に分かれるのだろうか。

「戦闘モードとは、『やる気ホルモン』と呼ばれるドーパミンが多く放出されるような状態です。こうなると人間は、興奮、覚醒、意欲の高まりが見られるようになり、消化管の活動は抑制されてしまいます。一方、癒やしモードでは、『幸せホルモン』と呼ばれるセロトニンが多く放出され、気分が安定し、消化管の活動が活発になり、食欲も増進するのです」(大平さん)

ドーパミンとセロトニン

なんと! であれば、常に幸せホルモンが脳内で放出されるような飲み方をすればいいではないか。できませんか、先生。

「実は、ドーパミンとセロトニンは、どちらか一方しか放出されないというわけではなく、どちらも同時に出ています。それがやじろべえのように、ドーパミン放出のほうに傾いたり、セロトニン放出のほうに傾いたりして、どちらかの影響が強く出ることがあるわけです。やじろべえがどちらに傾くのかは非常に複雑で、その人のアルコール分解能力や、その日の体調、またお酒を飲んでいる環境なども関係してくると考えられます」(大平さん)

大平さんによると、しゃれたレストランで食前酒をたしなむような会食をしているときはセロトニンが優位になるのに対し、居酒屋で大勢の若者が飲み会をしているときにはドーパミンが優位になるようなイメージのようだ。これは確かに納得できる。

「大学生が居酒屋で、『今日は飲むぞ、おー!』と気合を入れているようなときこそが戦闘モードなのです。お酒を飲んでお腹を壊すのを避けたいのであれば、こういった飲み方はせず、高級料亭にいるようなゆったりとした気分で、食事を楽しみながらお酒を飲めばよいわけです」(大平さん)

なるほど、年がいもなく「今日は飲むぞ!」と盛り上がっていると、翌日お腹を壊すコースになってしまうわけか。気をつけなくては。そして大平さんによると、「血中アルコール濃度」も脳に対して大きな影響を及ぼすという。

「個人差はありますが、血中アルコール濃度が50mg/dLくらいまでは気分もさわやかでリラックスした状態。それから150mg/dLくらいまでは、気が大きくなったり、なれなれしくなったり、心拍数が増加したりします。さらにそれ以上の血中濃度になると、うまく歩けなくなったり、気分が悪くなって吐いてしまったり、突拍子もない行動をとったりします。そうならないよう、血中アルコール濃度が急に上がらないような飲み方をすることが大切です」(大平さん)

アルコールが中枢神経に及ぼす影響

血中アルコール濃度による脳への影響については、過去の連載でも取り上げている(参考「認知症・酒乱… 飲酒で記憶が飛ぶ人が抱えるリスク」)。血中濃度を急に上げないためには、食事と一緒にお酒を楽しんだり、水も一緒に飲んだりすればよい。

大腸で吸収されないのに、なぜ大腸がんのリスクに?

ところで、こちらも過去の連載で取り上げたが、飲酒により大腸がんのリスクが上がるのは「確実」だと見られている(参考「大腸がんのリスク、酒が確実に高める では許容量は?」)。また、先ほど長期にわたる過剰なアルコール摂取が原因で、消化機能が低下してしまうという話も聞いた。

酒好きとしては、自分の腸に対するアルコールの影響が心配だ。大平さんに、腸内環境の専門家として、長期的な飲酒と腸の関係について聞いた。

「ちょっと極端な例になりますが、私と共同研究をしている東北大学の中山亨教授のグループは、アルコール依存症の方の便を調べてみました[注1]。すると、アルコール依存症の方の腸内環境では、ルミノコッカスやビフィズス菌といった偏性嫌気性菌(酸素に触れると死ぬ菌で、人の腸に存在する菌の99%以上に当たる)が、健康な方に比べて明らかに少ないことが分かりました。つまり、長期にわたり過剰な飲酒が続くことで、腸内細菌のバランスが大きく変わってしまったわけです」(大平さん)

[注1]Scientific Reports. 2016;6:27923.

腸内細菌のバランスと言えば、メタボリックシンドロームや生活習慣病、そして認知症にも関係してくるのではないかと最近の研究で分かってきたそうだ。依存症とまではいかなくても、長期にわたって飲み過ぎている場合、腸内細菌に悪影響がある可能性も少なくないだろう。

そして大平さんは、次のような興味深い指摘もしてくれた。

「ご存じかもしれませんが、アルコールは胃と小腸で吸収され、大腸まではほとんど到達しません。それなのに、アルコールが大腸がんのリスクを上げるというのは、不思議ではありませんか?」(大平さん)

そういえばそうだ。過去の取材でも、胃と小腸でアルコールは吸収されてしまうと聞いた(参考「悪酔い対策 ベジファーストより『オイルファースト』」)。

「実験データを見ると、アルコールは体内で代謝されるまで、血液を介して全身を巡っていることが分かります。つまり、毛細血管というルートを通じて大腸にもアルコールが到達しているのです。飲酒により大腸がんリスクが高くなるのは、こうしたことも原因になっているのではないかと考えられます」(大平さん)

なるほど。それならば、乳がんなどのリスクが上がることも説明できる。

「アルコールは最終的に、肝臓や筋肉などで代謝されますが、その過程で『酸化ストレス』が生まれます。われわれのグループが行ったマウスにおける実験結果を見ると、アルコールの量が増えるほど、しかもそれが長期になるほど、この酸化ストレスが腸に悪影響を与えていることが分かります[注2]。酸化ストレスによって偏性嫌気性菌がやられることも想像できるので、過剰なアルコールの長期にわたる摂取によって、酸化ストレスが継続的にかかることで、腸内細菌のバランスが崩れるという説が成り立つのです」(大平さん)

[注2]PLoS ONE. 2021;16(2): e0246580.

腸を整える食べ方・飲み方

ちょっと飲み過ぎて下痢になるならまだしも、腸内細菌のバランスが崩れ、大腸がんなどの病気のリスクが上がるとなると、軽視してはいられない。なるべく飲み過ぎないようにすることは当然として、腸をいたわるにはどのような食生活を送ればいいのだろうか。

「一言で言えば、伝統的な日本食がお勧めです。玄米、野菜、キノコ類、適度な果物をバランスよくとり、肉より魚を選ぶこと。お酒のおつまみであれば、わかめの酢の物や豆腐、枝豆などもいいですよね。脂肪分の多い食事は避けましょう。腸には味噌やキムチ、ぬか漬けなどの発酵食品がいいと言われていますが、塩分のとり過ぎには注意しましょう。正直、『とにかくこれを食べれば大丈夫』というものはありません。要はバランスです」(大平さん)

どうやら酒が進む揚げ物や塩辛は、腸には優しくないようだ。

和食など栄養バランスのいい食事に加え、「適度な運動も自律神経を刺激し、腸を活性化するのに効果的」と大平さん。ウォーキングや軽い筋トレなども、習慣的に取り入れたい。

◇   ◇   ◇

酒が進むと、つい「もう1軒行ってみよー!」と盛り上がってしまいがちだが、そこはグッと抑え、「ふんわり酔って気持ちいい」くらいでとどめておく。腸のためにも、ドーパミンではなく、セロトニン優位の飲み方を心がけたいものだ。

(文 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト、グラフ制作 増田真一)

[日経Gooday2021年7月6日付記事を再構成]

大平英夫さん
神戸学院大学 栄養学部栄養学科 准教授。神戸学院大学栄養学部栄養学科卒業。1997年、福井医科大学医学部附属病院(現:福井大学医学部附属病院)医事課栄養管理室管理栄養士。2002年より神戸学院大学 栄養学部栄養学科 講師。2016年より現職。

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