長編デビュー作で描いた「子ども」と「金魚」
公開中の監督・脚本・編集作品は『海辺の金魚』。児童養護施設で育った18歳の少女と、新たに施設にやってきた8歳の女の子の、夏の日々を描いた長編デビュー作だ。撮影は、自身のゆかりの地であり、観光大使も務める鹿児島県阿久根市で行われた。
「学生時代、主演の小川未祐さんに短編作品に出てもらったことがあるんです。その後、再会したとき、将来に対する不安や、これからやりたいことなどを話してくれて、その姿がすごく魅力的でした。そこから『彼女とまた映画が撮りたい』と企画を始めたのが、『海辺の金魚』です。

この作品で描きたかったのは、一人の女の子が、自分の人生を歩み出す瞬間。その舞台として浮かんだのが、児童養護施設でした。私は昔から、様々な境遇の子どもを描いた作品に関心を持ってきたんです。アニメだと『明日のナージャ』『キャンディ・キャンディ』『アルプスの少女ハイジ』。映画だと、『ショート・ターム』『悲しみに、こんにちは』など。そういう作品に引かれるのは……なぜでしょう(笑)。子どもは、誰かに守られなければ、生きていけない。そんな子どもという存在が、ちゃんと守られる世の中であるといいなという気持ちが大きいんだと思います」
『海辺の金魚』で印象的なのは、まるでカメラがないかのように振る舞う、子どもたちの自然な姿。そして印象的に描かれる金魚鉢と、その中で生きる金魚だ。
「子どもたちは子役ではなく、現地でオーディションをして選んだ子たちです。撮影で意識したのは、子どもたちに自然体でいてもらうこと。そのためにクランクインの前から一緒に過ごす時間を作り、遊んで、衣装の服を買いに行ったりもしました。特に、小川未祐さんと子どもたちの関係性をちゃんと作っていくことを大事にしましたね。
金魚は、人間の管理のもとでしか生きていけない魚。鑑賞用として鉢の中で生きるようになり、自然界では生きていけないんです。児童養護施設の子どもは、通常18歳になると施設を出なければいけません。それは金魚が海に出ていくような、大きなこと。そういう状況と金魚を重ね描いているところがありますね。
この作品を撮ったのは、2年前。そのときは、まさか世の中が、こんなふうになるとは思いもしませんでした。この映画には、コロナ禍でなかなか行けない地方の風景や、子どもたちの生き生きとした姿が映っていて、遠くへ思いをはせることもできます。ぜひ映画館で、心安らいでもらえたらうれしいです」

