本番前も、「思いっきりやってください。楽しみましょう」みたいに言ってくれました。僕たちはトークで何をしゃべるか決めてなかったのですが、アッキーがいつもやっている即興ミュージカルを、ここで見てもらおうと思い、その場で振ってみました。もちろん歌穂さんも巻き込んで。そしたらアッキーはミュージシャン魂が湧き上がってきたみたいで、亀田さんにも突然振ったりして、ステージはカオス(混沌)になってしまいました(笑)。亀田さんはそういうことも全部許してくれるというか、包み込んでくれる懐の広さがあります。ミュージシャンのマインドなのかもしれないですけど、自分の世界をしっかり持っていて、心も開いているという、すてきな在り方だと思いました。
日比谷公園や野音の開放的な空気も、音楽祭を盛り上げてくれました。2年前もそうでしたが、ずっと晴れていて、すごく気持ちよかったです。本当に、お客さまがいないことだけが悔しいことでした。でも、自分のコンサートでもそうでしたが、今はやれたことを喜んだり感謝しないといけないでしょうね。それが来年につながっていくと思うし。次は何ができるかなという話を、歌穂さんやアッキーともしました。もちろん来年は違うメンバーかもしれないし、僕がいるかどうかも分かりません。でも、ミュージカルの素晴らしさを多くの人に知ってもらえるよう、日比谷ブロードウェイが参加し続けることはとても大事なことだと思っています。
久しぶりのプリンス役は「首切り王子」
6月15日からはPARCO劇場で新しいお芝居『首切り王子と愚かな女』が開幕します。今はその稽古の真っ最中です。ミュージカルではなくセリフだけのストレートプレイで、蓬莱竜太さんが作・演出のオリジナル作品です。蓬莱さんとはずっとやりたいと言い続けてきたのですが、一緒にやるのは6年ぶりで4作目。今回はダーク・ファンタジーで、僕の役柄もいつもと大きく違っています。
舞台は雪深い暗い王国。僕が演じるのは「首切り王子」と呼ばれている第二王子トルです。彼には兄ナルがいて、第一王子のナルのほうは母親から溺愛されて育ち、一方のトルは幼い頃から「呪われた子」とされて城から遠ざけられていました。ところが兄が病に倒れたことで、反乱分子を鎮圧するために再び城に戻されて、使命に燃えたトルは反乱分子の首を次々に落とし、首切り王子として恐れられるようになります。
僕はずっと「ミュージカル界のプリンス」と呼ばれてきましたが、実際に王子役をやったことは少なくて、今回久しぶりのプリンス役だと思ったら、なんと首切り王子というダーク・プリンスでした(笑)。残忍で、かんしゃく持ち、自分の立場を利用して威張ったり、思い通りにならなければわめきちらすという最悪の性格です。それゆえにみんなに嫌われています。みんなに嫌われる役はやったことがないので、全く慣れません。誰も僕の方を見なかったり、冷たい視線で見ている状況に、「何だこれは……」と内心思いながら演じています。逆に言うと、わめきちらしたり、自分の意見を押し付けたりするのは、演技だからできる新鮮なこと。そこが今回のチャレンジだし、どんな首切り王子が生まれるのか。自分でもワクワクしながら、稽古に取り組んでいます。

(日経BP/2970円・税込み)

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第95回は6月19日(土)の予定です。