女優の岸惠子さん(88)は高校時代に松竹にスカウトされて銀幕デビューして以来、「君の名は」「雪国」「怪談」「ザ・ヤクザ」「細雪」など様々な名作映画に出演し、数多くの俳優や芸能人らと交流してきた。前回(「岸惠子、後悔は『戦場にかける橋』 出演を断ったワケ」)に続き、今回は人気俳優、有名人らとの知られざる意外なエピソードについて語ってもらう。
鶴田浩二、佐田啓二、池部良…、始まりも終わりも清らかな交際
――2020年5月に日本経済新聞に連載した「私の履歴書」では鶴田浩二さん、佐田啓二さん、池部良さんらと交流する様子が印象的に描かれました。結婚前に共演した日本人の俳優で思い出深いのはやはりこの3人ですか。
「ええ、そうですね。3人には本当にお世話になりました。鶴田さんには感謝という言葉しかありません。私をとても大切にしてくださったから……。清らかにお付き合いが始まり、清らかに終わったという感じです。私が新橋の店であつらえた純金のネックレスをおそろいで付けていたんですが、ある日、私が知らなかった事情を知らされ、もうお別れしようと心に決めました。自分で身を引いたんです。最後は橋の上から泣きながら、純金のネックレスを川に投げ捨てたんですよ」
「『雪国』『早春』で共演した池部さんとは一番相性が合っていたかもしれませんね。軽妙でユーモアがあるし、文章もうまい。もともと私、ああいうタイプが好きなんです。何でも言い合える仲だったから、私の声を『カケスみたいだね』なんて言いながら、よく笑っていた。私がイヴ(フランスの映画監督イヴ・シァンピ)と結婚を決めたとき、父から『どうしてウチの娘をつかまえてくれなかったんだ?』と言われたそうです。まあ、嘘か本当か知りませんけど……。第3部まで続いた『君の名は』で共演した佐田さんは、とても尊敬できる立派な社会人。良識がある真面目で誠実な人でした。3人とも素晴らしい俳優だったと思います」
最初断ったショーケンとの共演、背広姿の出迎えで気持ち変わる
――18歳下の萩原健一さんとは「約束」(1972年公開)や「雨のアムステルダム」(75年公開)で恋人役で共演しました。
「『約束』の話があったとき、斎藤耕一監督がパリの自宅まで出演依頼に来てくれました。私、ショーケンと言われても、誰だかよく分からないし、顔写真を見せられただけだったので、『こんな若い人と共演するの嫌だわ』とお断りしたんです。でも斎藤さんから『1回だけでいいから、日本に帰国して本人に会ってほしい』と熱心に頼まれたので、会ってみることにしました」
「すると羽田空港でビシッとした背広姿でネクタイを締めたショーケンが礼儀正しく私を出迎えてくれた。後で聞いたら、生まれて初めて背広を作ったんですって。かわいいし、真面目でいい子だし、魅力もあったので、『出演を断ったらかわいそうだな』と思い、共演することにしました。映画の衣装探しのためにデパートにもずっと付き添ってくれたんですよ。わざわざ買ったというスポーツカーで送り迎えもしてくれた。だから『映画では役者としての彼をもり立ててあげよう』という気持ちに自然になっていました」