入り口と違う出口を作る

2011年に入社後、バラエティ制作班に配属。『世界ナゼそこに?日本人』(現『ナゼそこ?』)といった番組に携わってきた。実はそこで培った経験が、上出が生み出す作品に生きているという。彼の名を広く知らしめた『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』は、あえてナレーションを入れず必要以上に説明しない、現地の人を主人公にしたストーリーにするなど、様々なこだわりを持って作られている。なかでも常に意識しているのが、「ちゃんとエンタテインメント作品にする」ということだそうだ。

「正直な話、世の中のドキュメンタリー作家の9割は人に見てもらえないものを作っていると思っています。視聴者に伝えるための策を最大限練らないといけないのに、作り手の正義や社会的意義を優先してしまっている。見てもらえなければ正義もクソもありません。まずは面白くないといけない。その点僕は、バラエティ畑で育ったこともあって、そういう文法みたいなものが体に染み付いている。どうやったら飽きさせないかを最低限は心得ているつもりです。

2017年10月3日放送のリベリア編。墓地で生活をする元少年兵たちに会いに行きカメラを強奪されそうになった (C)テレビ東京
リベリア編で、娼婦として働く元少女兵・ラフテーの生活にも密着。仕事後の食事シーンも収めている (C)テレビ東京

大事なのは、入り口と違う出口を作ること。17年の初回に放送したリベリアの話では、内戦が続いた結果、人食い少年兵まで生まれてしまった過去の歴史を冒頭で持ち出し、視聴者の興味を引くようにしています。その後に墓地に住む、元少年兵らに会いに行っていますけど、人を食べたという話は全くしていません。メインに描いているのは、主人公となる元少女兵士・ラフテーの日常です。

僕がやりたかったのは、『彼らと、僕らの違いってそんなにないかもしれませんよね』という問い掛け。むしろ逆のことを言っているんです。めちゃくちゃヤバい人たちが出てきますという入り口を作れば、受け手としては『こういう話なんだろうな』って想定するじゃないですか。ただ、それがそのまま出てきても、ワクワクはないんですよね。あえて違う出口、つまり裏切りを用意することで、想定外の感情が生まれ、見た人の印象に強く残る作品になるんじゃないかなと思っています」

一方、テレビマンとして現在興味のある分野を聞くと、「音声メディア」という答えが返ってきた。

「様々なプラットフォームが増えて、『テレビはオワコンだ』とか言われることもありますけど、それでもやっぱり、今まで積み上げてきた蓄積がテレビ界にはあるわけで。それを生かしながら、時代にアジャストしたコンテンツを生み出すことで、お金を稼いでいくしかないと思うんですよね。

そういう意味では、YouTubeやNetflixなどの台頭で、映像業界が飽和しちゃってる現在、音声コンテンツのほうがまだ、ブルーオーシャンに近い気がしています。最近は僕自身が触れるメディアとして、ラジオやポッドキャストのプライオリティーが上がっていることもあるんですけど、僕が作るドキュメンタリーは、実は音声と相性がいいんじゃないかなと前から思っていたんです。映像だとテレビモニターを間に挟むため、どうしても境界線が生まれて違う世界の話のままになってしまう。ただ音声だと鼓膜に直なので、シームレスな追体験が可能になるんじゃないかと。

そんな時に、コロナで海外ロケができない状況となり、日本国内で音声ドキュメンタリーを録り始めたんです。既に、右翼と左翼をテーマにしたものや、日本のセックスワーカーに焦点を当てた作品を制作しています。そしてそれらの作品を、4月末からSpotifyで『ハイパーハードボイルドグルメリポート no vision』として、ポッドキャストで配信し始めました。テレビ東京とSpotifyがタッグを組んだ 、“超没入型突撃音声ドキュメンタリー”に仕上がっているので、ぜひ聴いてもらえるとうれしいです。

(ライター 中桐基善)

[日経エンタテインメント! 2021年4月号の記事を再構成]

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