絆、社会性、死を悼む 「人間的」なチンパンジーの母

2021/5/31
ナショナルジオグラフィック日本版

母親に寄り添うチンパンジーの赤ちゃん。チンパンジーと人間はDNAの約99%を共有している(PHOTOGRAPH BY ERIC GEVAERT, ALAMY)

24時間態勢で赤ちゃんの世話をし、その後も10年以上にわたって濃密な関係を続ける。あなたにも覚えがあるだろうか。人間の母親と同じように、チンパンジーの母親も膨大なエネルギーを費やして、子どもを健康なおとなに育てあげる。

近年、新たな研究によって、チンパンジーの母親像がより明らかになってきた。ここでは昨年から今年にかけての3つの研究成果を紹介しよう。

こうした研究成果は、絶滅危惧種であるチンパンジーを守るうえで助けになるだろう。1900年には約100万頭いたチンパンジーは、生息地の破壊、狩猟、病気などにより、現在では17万2000~30万頭と、少なくとも70%減少している。

おとなになっても親密、母と息子の絆

ウガンダの熱帯雨林からタンザニアのサバンナ森林地帯まで、チンパンジーの集団は実に多様だ。それぞれに特徴的な行動が見られるものの、共通しているのは母と子の間に強い絆があること。「人間の愛情関係と同じように、言葉では言い尽くせないものがあります」と、野生チンパンジーを長年にわたって観察してきた米ハーバード大学のポスドク研究員、ラチナ・レディ氏は語る。

チンパンジーの母親は、おとなになった息子とも強い絆を示すことがある。これまで断片的に記録されてきたこうした絆が、おそらくごく標準的なものであるとする研究成果を、レディ氏と共著者のアーロン・サンデル氏は2020年11月に発表した。

研究チームは、ウガンダのキバレ国立公園内の研究サイトの1つ、ンゴゴに生息するチンパンジーの集団において、青年期と若いおとなのオス29頭が、他個体とどのように交流しているかを3年間にわたって観察した。オスたちは子どもの頃ほど頻繁に母親と顔を合わせることはなかったが、たまたま近くにいるようであれば母親を探し出し、長時間にわたって毛づくろいをした。

さらに親しい関係を保っている個体もいた。「若いおとなのオスの約3分の1は、母親と親友のような関係なのです」とレディ氏は言う。

このような母子の永続的な関係は、おそらく地域を越えてチンパンジー全体に見られるものだ。哺乳類でこうした関係ができるのは非常に珍しい。おとなになったオスはたいてい生まれた集団を離れるからだ。チンパンジーの場合、集団を離れるのはメスであるため、メスのチンパンジーにとって最も親密な家族は、自分の息子である場合が多い。

若いオスは集団を離れないものの、彼らにも厳しい移行の時期というものがある。おとなのオスで形成される社会のヒエラルキーに入っていく時期だ。

今回の研究では、オスの人生の転換期に、母親が重要な役割を果たしていることもわかった。母親は、息子が年上のオスと衝突したときに守ってやったり、息子に触れることで慰めてやったりしていた。

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