自己主張だけでなく存在感で認めてもらう

多くの人たちが、自分のことを認めてもらいたい、もっと知ってほしい、そんな自己承認欲求を満たしたいと思っています。実名か匿名かは別としても、SNSで自身の行動記録だけでなく、思いや計画、戦略までをも発信してしまう風潮もあります。

その姿勢は、自分だけにしか興味を持つことができない我の強さや存在感の軽薄さにもつながりかねません。

「自分が自分が」という自己主張をしなくとも、静かに穏やかに存在感を示すことは可能であるということを、草彅さんは体現してくれました。

トランスジェンダーというテーマで描かれた今作は、本来であれば公開前からもっと注目を集めて良いはずの作品でした。ですが、地上波のテレビ番組における告知はほぼありませんでした。ウェブ記事などで、草彅さんが役づくりのために準備を重ねたことなどが明かされていましたが、多くの視聴者や観客は、公開された作品を通じて、ようやく草彅さんの努力や心意気、そして高い演技力に改めて触れたといえるでしょう。

だからこそ、作品のインパクトがより増したのかもしれません。

ビジネスシーンにおいても、プロジェクトや業務を遂行する上では、そのために必要な情報や知識のストックを積み上げていくことが大切です。そしてその積み上げの段階では、自己顕示欲から発せられる言動や自己主張の強い行動は慎む方が得策でしょう。

静かに穏やかに準備を進めていく過程で、それまでに得た情報と培った知識を生かせる局面をいざ迎えた際に、その場に必要な力を確実に発揮する。そしてその力は静かに醸成された闘志がけん引するなかで発揮されることで、より威力が増します。

草彅さんを見ていると、今の時代に心得ておきたいそんな姿勢を学ぶことができます。

草彅さんが大河ドラマ『青天を衝け』で演じている慶喜は、諸外国からの圧力が強まった幕末の日本を守り通し、近代日本の立国へとつなげた人物です。

穏やかなたたずまいながらも歴史を変える決断を下す最後の将軍の静かな闘志と、草彅さんの存在感や秘めたる闘志は合致しやすいのかもしれません。

私自身も草彅さんが演じる慶喜の言動や行動から、様々な場面における存在感と秘めたる闘志の妙を学び取りつつ、大河ドラマの今後の展開を楽しみたいと思います。

鈴木ともみ
 経済キャスター。国士舘大学政経学部兼任講師、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。JazzEMPアンバサダー、日本記者クラブ会員。多様性キャリア研究所副所長。地上波初の株式市況中継番組を始め、国際金融都市構想に関する情報番組『Tokyo Financial Street』(STOCKVOICE TV)キャスターを務めるなど、テレビ、ラジオ、各種シンポジウムへ出演。雑誌やニュースサイトにてコラムを連載。近著に「資産寿命を延ばす逆算力」(シャスタインターナショナル)がある。

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