孤立しない子、育てるには ひきこもり支援者に聞く

子どもがひきこもってしまったら、親はどうしたらいいのか(写真はイメージ=PIXTA)
子どもがひきこもってしまったら、親はどうしたらいいのか(写真はイメージ=PIXTA)
日経DUAL

子どもがひきこもってしまったら、親はどうしたらいいのでしょうか。NPO法人パノラマ代表理事の石井正宏さんは、ひきこもり当事者や親の支援を20年以上担ってきました。近年は高校と連携して、生徒に社会参加の機会を提供し、「ひきこもり予備軍」をつくらないための活動などにも取り組んでいます。石井さんに支援の実態や、孤立しない子を育てるために親が今できること、子どもがひきこもった時の親の心構えなどを聞きました。

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無理に引き出そうとしないで

「子どもがひきこもっても頼るべき行政組織や支援者、医療機関は用意されており、親が情報を持つことができれば、パニックになったり、絶望したりせずにすむのではないでしょうか」とNPO法人パノラマ代表理事の石井正宏さんは言います。

政府は都道府県や政令指定都市に「ひきこもり地域支援センター」を設けています。同センターでは、相談対応や家庭訪問を通じて当事者の状態を把握し、必要な場合は、医療機関や生活困窮者向けの窓口、ハローワークなどの専門機関につなげます。

各市町村が個別に相談会を開いたり、ひきこもりを脱して外に出始めた人の「居場所」を設けたりもしています。また当事者同士が自発的に集まり、交流する会なども開かれています。石井さんが設立したNPO法人パノラマも、本人と親の相談に応じるほか、「居場所」や地域住民との交流の場を提供しています。

ただ、「福祉の枠組みでは対応しきれず、親の経済力頼みになっているケースも多々ある」と石井さん。職員の理解不足から、ハローワークで「なまけてはだめだ」と当事者が説教された、相談窓口で「育て方が悪かったせいだ」と親が責められた、といった話も後を絶たないといいます。

行政の支援に失望した親が、ひきこもりの子を、本人の同意なしに施設へ連れ去る「引き出し業者」に委ねる。そんな事態も起きています。しかし本人にとって、無理に引き出されるのは親が考える以上に恐ろしいことだと、石井さんは解説します。

「当事者は自分自身に絶望し、外の世界に生きる道があるとは到底思えなくなっています。親や業者が無理に引き出そうとするのは、子どもにとって崖っぷちで背中を押されるのと一緒。『殺される』と思うほどの恐怖なのです」

ひきこもった本人が、自分からSOSを発することはほとんどありませんが、石井さんら支援者は、少しずつ当事者と関係をつくり、無言のニーズを察知して、外へ出る道を探っていくのです。

将来ひきこもらせないために与えたい「資本」とは

では、子どもを将来ひきこもらせないため、親にできることはあるのでしょうか。

石井さんは、子どもになるべく多彩な経験をさせて、多くの「好き」をつくること、つまり「文化資本」を提供することではないか、と提案します。昆虫採集や山歩き、アニメやアイドルなど、分野は問わないといいます。

「文化資本が豊かな人は、外の世界でやりたいことが多いのでひきこもりにくいし、ひきこもっても『推し』アイドルのライブに行きたいなど、外に出やすくなります。外に出てからも、趣味の話題などがあれば他人とのコミュニケーションを回復できます」

不登校になっても、例えば釣りざんまいの生活を送れば、釣りのスキルや魚に関する知識を蓄積できます。「昨日よりも少し成長し、新しい知識が増えたと実感することで生活の質(QOL)を高められます。それが外に出やすい環境をつくり出し、ひきこもりへの移行や長期化を防ぐことにもつながります」

ひきこもりは社会全体で解決すべき問題

しかし、親が豊富な文化資本を与えたとしても、いじめのトラウマや発達障害などによって、生きづらさを抱える人もいます。

また、貧困家庭の子どもは、「文化資本」がどうしても乏しくなってしまいます。このため貧困も、ひきこもりを生む要因の一つだと、石井さんは指摘します。「実は費用を捻出できないからなのに、表向きは『つまらないから行かない』などと言って修学旅行を欠席する子どももいます。貧困家庭で、習い事や旅行などの経験が圧倒的に少ないと、友人と共通の話題が乏しくなり、語彙力や共感力、意思を伝える力が育ちにくい傾向がみられます」

だからこそ、ひきこもりを各家庭の「自己責任」として片付けるべきではないと、石井さんは強調します。「ひきこもりは行政による福祉の枠組みを中心に、社会全体で解決すべき問題なのです」

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