気になる感染症について、がん・感染症センター東京都立駒込病院感染症科部長の今村顕史さんに聞く本連載。今回は、感染拡大の猛威を振るう新型コロナウイルス感染症について解説していただく。接触歴が追えない感染者の報告が増えてきている今、私たちはどんな心構えで、どんな対策を行えばいいのか。感染対策や治療の最前線で対応を続ける今村さんにアドバイスしていただいた。※2020年2月21日時点の情報です。
●現在は、中国・武漢での滞在歴や患者との接触歴が追えない感染者の報告が増えており、散発的な地域流行が起こり始めている
●新型コロナウイルスに感染しても、その多くは軽症で回復し、致死率は2%程度。ただし、高齢者などでは多くの重症者も見られている
●感染拡大を防ぐには、風邪やインフルエンザと同様に、手洗いや、症状がある人のマスク着用、自宅療養など日常的な予防の徹底が重要
●軽症例も多いことから、本人も気づかないで感染を広げる可能性があり、大規模なイベントの開催などの自粛も検討される
●感染の疑いや不安があれば、「新型コロナウイルス感染症についての相談・受診の目安」(記事末に紹介)を参考に、「新型コロナウイルスに関する帰国者・接触者相談センター」に連絡を
多くは軽症で回復、致死率は2%程度
――今村先生は第1種感染症指定医療機関の一つとなっている東京都立駒込病院で、新型コロナウイルス感染者への対応を最前線で行っていますが、現状をどう捉えていらっしゃいますか。
2月13日には国内でも新型コロナウイルス感染者の死亡が初めて確認され、患者との接触歴が追えない感染者の報告が、東京都、神奈川県、千葉県、和歌山県、愛知県などのほか、北海道、沖縄県など、離れた複数の地域からも増えてきています。散発的な地域流行が起こり始めていると考える段階に来ているでしょう。
インフルエンザでも散発的な地域流行から全国的な流行へと広がっていくことがあるように、新型コロナウイルスもさらなる拡大が懸念されます。新型コロナウイルスに感染しても、初期には無症状や風邪と区別がつかない症状のことが多いので、気づかぬうちに感染が広がっていく可能性もあります。
――連日のように感染者の増加が伝えられる中で、いたずらに不安にならないために、私たちが知っておくべきことはどんなことでしょうか。
重要なのは、新型コロナウイルスに感染しても、その多くは軽症で回復していくということです。中国の感染者4万4000人以上のデータを分析した結果を世界保健機関(WHO)が報告していますが、それによると80%以上は軽症で、致死率は2%程度となっています。診断されていない軽症例や無症状の例も考慮すると、致死率はさらに低いかもしれません。
ただし、その一方で、上記の解析結果では高齢者を中心に約14%が肺炎などの疾病を起こし、約5%が呼吸困難や多臓器不全など重とくな状態となっていることも事実です。日本でも感染者数が増えていけば、それにともなって重症者や死亡者も増えていくことになるでしょう。
そのような状況をできる限り回避するためには、今が大事な局面となっています。患者との接触歴が追えない感染者が多くなってきているとはいえ、行政には引き続き、接触歴を追う努力が求められますし、私たちのような医療者や医療機関のスタッフも、夜間・休日を問わず最前線での対応を続けています。
また、軽症例も多いということから、本人も気づかないで感染を広げる可能性があります。したがって、感染を拡大させやすい大規模なイベントについては、開催中止や延期などの自粛も検討されます。また、企業などによる時差出勤やテレワークなどの努力も、今後の感染拡大を少しでも防ぐためには有効でしょう。このような社会の中における地道な予防対策も、重要な意味をもつ局面となっているのです。