岩手・宮城・福島の水産加工品10選 食べて復興支援

東日本大震災の被害が大きかった東北3県(岩手・宮城・福島)は海の幸の宝庫だ。復興とともに、魚介類のうまみをとじ込めた缶詰や瓶詰も多彩に進化した。手軽におしゃれな食卓を演出できる水産物の加工食品を、専門家に選んでもらった。
1位 燻製めひかりのオリーブオイル漬け
脂のり 骨まで柔らか

福島県いわき市が「市の魚」に制定するメヒカリを使用。販売するいわきオリーブの松崎康弘さんによると、脂の強いメヒカリを干し、塩水で処理してから薫製するという手間のかかる工程を経ることで「身がしまった感じが出せる」。「オイルの香りが良くすっきりしていて、魚のうまみもしっかり感じられる」(黒瀬佐紀子さん)。骨まで柔らかく、子供やシニアにもぴったりの一品だ。
(1)いわきオリーブ(2)702円(3)メヒカリが5~6尾(4)https://www.gurutto-koriyama.com/detail/905/store.html
2位 南三陸産 銀鮭の醤油煮缶詰
大ぶり具材で食べ応え

刺し身でも食べられる三陸の銀ザケを缶詰に。「そのままでもおいしいが、パスタや北海道の郷土料理のちゃんちゃん焼き、シチューなど何でも加工できる」(佐藤正光さん)。具材は大ぶりで「食べ応えがあり、優しい味付けなので子供も好きそう」(今泉マユ子さん)。製造元のマルヤ水産の千葉卓也社長は「缶詰にすることで、圧力鍋でじっくり煮込んだような柔らかさや味を引き出せる」と話す。
(1)マルヤ水産(2)3缶入り3200円(3)180グラム(1缶)(4)https://www.ohgle.co.jp/product/32
3位 海女の磯汁
魚介複数 味に奥行き

磯汁は、三陸の海女たちが冷えた体を温めるために食べていた郷土料理。ウニに加え「ホタテやツブ貝など具材がしっかりしている」(島本孝枝さん)。シェフの清水崇充さんは「複数の魚介のうまみが重なり、味に奥行きがある」と評価する。製造する小袖屋の本社がある久慈の缶詰工場は東日本大震災で被害を受けた。磯汁以外にもウニとアワビを使った「いちご煮」など、郷土料理のPRに一役買う缶詰作りにこだわっている。
(1)小袖屋(2)1360円(3)415グラム(4)https://kujinokosodeya.co.jp/index.html
4位 牡蠣(かき)佃煮(つくだに)
添加物使わず 一粒で贅沢感

宮古湾で採れた、同じサイズのカキだけを添加物を使わずに炊き上げた。製造する早野商店によると「加工品でも、市場に出荷するカキと同質のものを厳選して使っている」という。「おいしいカキがなければ出せない味、一粒で贅沢(ぜいたく)感がある」(佐藤さん)と素材の良さを評価する声が挙がった。
同社は昆布巻きなどの加工食品を得意とし、震災後に復興の一環で宮古のカキを使った商品開発を始めた。「カキの柔らかさ、風味、しょうゆとショウガのバランスが良い」(吉田慎治さん)。洋酒に合わせるのもおすすめだ。
(1)早野商店(2)1296円(3)90グラム(4)https://i-hayano.jp/index.html
5位 鯖しいたけ煮付
学生ら開発 意外な相性

岩手県の食材のPRをめざして、宮古水産高校の学生と岩手県立大学の復興支援サークルなどが商品開発に取り組み、生まれた一品。サバに合う地域特産の農産物としてシイタケを選び、缶詰にした。食品バイヤーからの評判が高く、地元企業が製造と販売を引き継いだ。
専門家からはシイタケとサバの意外な相性を評価する声が。「シイタケの風味がサバ特有の匂いを抑えており、シイタケのうまみも加わっている」(黒川勇人さん)。「サバの骨まで柔らかく食べられ、シイタケの味がサバのうまさをさらに引き出す」(田代和久さん)
(1)丸友しまか(2)432円(3)180グラム(4)0193・62・1332
6位 しらす山椒油漬け
ほどよい塩味とうまみ

しらすの食感を引き立てるエゴマ油と、風味づけのごま油などの油を使用。相馬などで採れた山椒(さんしょう)もアクセントに。「ほどよい塩味にごまや昆布など自然なうまみが加わっており、食べ飽きない味」(黒川さん)。製造元によると、もとはコウナゴの油漬けが人気だったが、資源不足のためしらすを材料に開発したという。無添加の製法で魚介の栄養を手軽に取れると、高齢者を中心に人気だ。
料理の幅も広がる一品で「しらすと山椒、オイルのバランスが良く、パスタや豆腐と何にでも合わせて食べたい」(今泉さん)。
(1)海鮮フーズ(2)648円(3)80グラム(4)https://kaisenfoods.weebly.com/(注文はFAXで)
7位 牡蠣味噌
ご飯にもお酒のつまみにも

宮城名産のカキと仙台味噌を合わせた。カキの食感が残るように粗めにくだき、内容量の半分以上をカキにして風味や味を引き立たせた。「口にカキのうまみが残り、味噌との相性が抜群」(田代さん)。「温かいご飯にもお酒のつまみにも合う」(島本さん)。クリームチーズや野菜スティックに合わせても楽しめそうだ。
製造元の末永海産はもともと生ガキのパック詰めなどを作っていた。東日本大震災で冷蔵設備などが被害を受け、加工食品の製造を始めた。牡蠣味噌は第1号の商品で「復興のシンボルのような存在」という。
(1)末永海産(2)700円(3)100グラム(4)https://hitakamiichiba.com/?pid=142221335
8位 うに缶
味付けせず 素材の甘み生かす

三陸でよく採れる「キタムラサキウニ」は、北海道などで採れる「バフンウニ」と異なり、色が黄色っぽく粒が粗いのが特徴という。味付けをせず缶ごと蒸すことによって、このウニ本来の風味や甘みを逃がさないようにしている。「蒸しウニのみで、添加物がないのも魅力。また食べたいと思う」(鳥山祐加子さん)と、素材本来の味を生かす製法に注目する声が多かった。
「チーズやクラッカーと合わせるとよりリッチに楽しめる」(野口英世さん)。製造元の宏八屋によると「3年間の賞味期限の中で寝かせると、味が円熟していく」という。
(1)宏八屋(2)2800円(3)90グラム(4)https://www.kohachiya.jp/
9位 ほや酔明
レトロなパッケージも魅力

その名の通り「夜が明けるまで楽しく酔ってほしい」との願いが込められたほや酔明は、40年近くお酒のお供として愛されてきた。東北新幹線の名物のお土産としても知られる。メーカーの水月堂物産によると、ホヤは水揚げをしてすぐに殻をむくことで、にがさやえぐみが取れた商品になるという。
「おつまみにちょうど良い味付けで、少量でも満足できる」(清水さん)。パッケージのデザインにも注目があつまり「レトロでかわいらしく、パーティー卓においてあると喜ばれそう」(黒瀬さん)との声も。
(1)水月堂物産(2)350円(3)12グラム(4)https://www.suigetsudo.jp/
10位 帆立水煮
貝ひもまで柔らかく

1864年に創業し、魚介の缶詰やつくだ煮、干物を販売している丸市屋。缶詰は添加物を一切加えず「子供でも安心して食べられる」(同社担当者)という。食べ応えのある粒の大きいものを選び、貝ひもまで柔らかくなるように煮込んでいるという。
「ホタテの味がしっかり生きている」(吉田さん)と風味や食感を楽しめる点が評価された。シンプルな味付けだからこそ「中華や洋食系のお料理にも使えそう」(浅尾貴子さん)という声も。同社はほかに貝柱缶なども扱っており、贈答用に好まれるという。
(1)丸市屋(2)600円(3)100グラム(4)http://www.maruichiya.com/
地元魚介の魅力 震災通じ再認識
東北の太平洋岸を中心に甚大な被害をもたらした2011年の東日本大震災。漁船の流失や加工施設の損壊、福島第一原子力発電所の事故による風評被害で、いまだ震災前の状況に戻れない漁業者や製造会社も多い。一方で復興の歩みの中で全国で評価される多くの加工食品も生まれた。福島県出身で缶詰博士の黒川勇人さんによると、18年ごろに起きたサバ缶ブームをけん引したのが、岩手県産(岩手県矢巾町)や木の屋石巻水産(宮城県石巻市)など東北のメーカーだったという。「震災を通じて地元の魚介類の魅力を再認識し、魅力的な商品が生まれた」
食のプロが復興支援に携わり、商品開発につながったケースもある。宮城県女川町で鮮魚店を営む岡清は、イタリア料理店ALMA(東京・渋谷)の佐藤正光シェフと協力。東北の魚介類などを、気仙沼出身の佐藤シェフのレシピと一緒にインターネットで販売している。ステイホームの今、ネットショッピングの機会も増えている。震災を乗り越えて進化した東北の味を堪能してみよう。
ランキングの見方
調査の方法
今週の専門家
(荒牧寛人)
[NIKKEIプラス1 2021年3月6日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。