「職業=俺」の感覚をもて

ほしゼミ土曜講座を通して、島田さんが生徒たちに伝えたいと思っていることを畢竟(ひっきょう)すれば2点。「『職業=俺』の感覚をもて!」と「あえて、ひとに会え!」。

「『職業=俺』の感覚をもて!」とは、つまり自分を客体化しろという意味。誰でもできることを競い合って生きる生き方はもう限界。「いかに自分にしかできないことに気づき、社会の中に自分が必要とされる場所を見つけていくか。それがキリスト教のミショナリーの精神でもありますし、本校が掲げる『世の光であれ』というのはそのうえで利他的であれということです。会社員でも公務員でも医師でも弁護士でも同じです。高校生だからこそ埋められる社会のすきまもあるはずです」

「あえて、ひとに会え!」というのは、自分の視野や価値観のなかだけで世の中を見てえり好みするのではなく、積極的にひとに会って話を聞き、凝り固まった自分の殻を打ち破れということ。まさしく高校生の特権でもある。高校生が「話を聞かせてほしい」と言ってきたら、どんなに忙しいひとでもたいてい快く時間をつくってくれるものだ。社会人が同じことをしたら単に非常識なひとだと思われる。

校内に掲げられる教育目標

もっと「予定調和とならない因果のいたずら」を

「今後はアントレ(アントレプレナーシップ)塾みたいなものにも挑戦したいですね。でも単なるお金もうけの話ではなく、そういうわかりやすい動機付けをフックにして、企画、プレゼン、交渉、ターゲティング、ブランディングなどの戦略をたて、試行錯誤する経験を積ませたいという意図です」(島田さん)

生徒のなかには、「安くすれば売れる」とか「良い物(正解)を出せば利益が得られる」みたいに「A→B」的短絡思考にとらわれている頭でっかちも少なからず見受けられると島田さんはもらす。しかし実際にビジネスを立ち上げてみれば、ちょっとした条件の違いでうまくいかないことがたくさんあり、走らせながら修正を加えていく必要性に気づくはず。

「理屈では説明できない人間の衝動に訴える場面でつまずくことが大きな意味をもつと思います。ともすれば偏差値に縛られがちな本校の生徒たちにとっては、その経験こそが探究活動であり、彼らに足りないものだと思うんです。世間一般にいわれる『探究』のなかでも『調べ学習』に近いものでは、彼らはすぐに『正解』を見つけて『テンプレ(テンプレート)』に落とし込んでしまいます。もっと『世の中の不条理』や『予定調和とならない因果のいたずら』に触れる機会を、アントレ塾の中に盛り込みたいと思います」

大阪星光学院生たちが特別授業や勉強合宿で頻繁に訪れる和歌山県の南部学舎や長野県黒姫の山荘での地域とのつながりを生かしたいとも構想中。教育連携している城星学園中学校・高等学校と共同にしても面白い。実際、20年度にオンラインで実施されたほしゼミ土曜講座には、城星学園の生徒たちにも参加してもらった。

「そういった広がりのなかで取り組むことで、『男子校』『都市生活』『偏差値主義』の日常のなかで知らず知らずのうちに生徒たちを縛るステレオタイプ的思考を解放し、ダイバーシティーの感覚を育んでいきたいと思います」

大阪星光学院中学校・高等学校(大阪市)
世界138カ国で約2500もの学校を運営する教育修道会サレジオ会によって1950年につくられた男子校。1学年は約190人で、高校から約10人の募集がある。2020年の京大合格者数は30人、東大は6人、国公立大医学部は36人。東大・京大・国公立大学医学部合格者数の直近5年間(2016~2020年)平均は92.2人で全国17位。卒業生には、吉本興業元会長の林裕章氏、精神科医の名越康文氏、俳優の内藤剛志氏、作詞・作曲家のヒャダイン氏などがいる。

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著者 : おおたとしまさ
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