ルーフトップ・コンサートも未公開映像

アップル・スタジオでのセッションは、後に「ルーフトップ・コンサート」と呼ばれる、30日のアップル・ビル屋上でのライブで頂点を迎える。ここが第3ステージだ。

この時点ではまだテレビ番組のためのライブだったようで、監督は劇的なエンディングにしようと11人のカメラマンを配置したという。屋上のレコーディング現場はエンジニアでのちにサウンド・プロデューサーを兼ねるグリン・ジョンズに任され、マーティンは地下スタジオで待機。ポールはやる気満々だったが、ジョージとリンゴは直前までちゅうちょしていた。結局ジョンの「やろうぜ」の一声で屋上へ。

ルーフトップ・コンサートが行われたアップル・ビルの屋上。ビートルズのメンバーはこんなロンドンの街並みを眺めながら演奏していた (C)Kozo Fukuoka

午後0時40分頃に演奏を開始し、ちょっとしたアドリブ演奏や中断を挟みながら、「ゲット・バック」(3テイク)「ドント・レット・ミー・ダウン」(2テイク)「アイヴ・ガッタ・フィーリング」(2テイク)「ワン・アフター・909」「ディグ・ア・ポニー」と5曲9テイクが演奏されている。

旧作映画ではこの屋上ライブがクライマックスとしてエンディングを飾っている。屋上に4人が姿をみせ1曲目「ゲット・バック」(2テイク)を演奏。ビルの周辺やまわりのビルの屋上には早くも人だかりができている。2曲目「ドント・レット・ミー・ダウン」ではジョンが2番の出だしの歌詞を間違えている。人だかりは大きくなり警官の姿も映し出される。

3曲目「アイヴ・ガッタ・フィーリング」の演奏シーンでは通行人のコメントが挟まれる。周囲の混雑がひどくなり警官が交通整理を開始。4曲目の「ワン・アフター・909」の演奏が終わるとジョンが「ダニー・ボーイ」の一節を歌う。路上では警官の動きが慌ただしくなる。5曲目の「ディグ・ア・ポニー」ではジョンのためにスタッフが歌詞カードを掲げている。そして、この曲の演奏中についに警官がビルに入ってくる。

警官はマル・エヴァンズ に演奏を止めるよう要請。実際にはこの後「アイヴ・ガッタ・フィーリング」と「ドント・レット・ミー・ダウン」の2テイク目が演奏されるが、映画ではカットされ、最後の曲「ゲット・バック」が警官のいる前で演奏開始。マルは警官の指示でアンプを切るが、それに気づいたジョージは再び電源を入れて演奏を続ける。どの曲もスタジオでのリハーサルとは見違えるほどの出来栄えだった。そしてジョンの「オーディションに受かるといいけど」というジョークで映画は終わる。映画のハイライトを盛り上げるために、演奏と並行して常に警官の動きが追われており、これがゲリラ・ライブの臨場感を醸し出している。

新作映画の先行特別映像では「ゲット・バック」の演奏に乗って、屋上ライブから数カットの断片が使われている。リンゴが屋上から下を見おろすシーン、若き日のライブさながらに演奏前にリンゴがドラムで盛り上げ、フロントの3人が足場を確認するかのように飛びはねる、警官の前で派手にジャンプを決めるポール、そしてメンバーの演奏シーンなどだ。屋外の演奏シーンはこのライブ映像だけなので、すぐに見分けられる。さらにはライブ終了後に地下のスタジオでプレイバックを聞くシーンでは、ポールの真剣なまなざしやモーリーンのノリのいい姿が見られる。合計しても10秒ほどにすぎない断片ばかりだが、いずれも旧作では使われていなかった未公開映像ばかりだ。

まだ新映像が未公開の第4ステージ

翌1月31日にはアップル・スタジオでライブ・レコーディングが行われる。ここが第4ステージだ。屋外での演奏には不向きだと判断された「トゥ・オブ・アス」「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」「レット・イット・ビー」の3曲が繰り返し演奏され撮影されている。このプロジェクトの「オーバーダビングなしのライブ演奏でアルバムを作る」というコンセプトはセッションの最終日まで貫かれていたのだ。

旧作映画では、この日スタジオで録音撮影された3曲をルーフトップ・コンサートの前に挿入している。「レット・イット・ビー」ではレコードとは異なる印象的なギター・ソロが、「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」はポールが意図したシンプルなアレンジでの演奏が楽しめる。

新作の先行特別映像では、この日のスタジオ・ライブからの映像は使われていない。未使用映像はそれなりにあるはずなので、新作映画では最終バージョンまでの試行錯誤のようすなども見てみたいものだ。

クライマックスとなる2日間のライブの撮影が完了、アルバム収録予定曲のレコーディングもほぼ終えたことで、ゲット・バック・セッションはいったん中断する。

だが制作はこの先も断続的に続き、複雑な経過を経て、70年5月にアルバムと映画『レット・イット・ビー』として完結することになる。本稿の後編では第5ステージともいえる、その経過を整理するところから始めよう。

<<前編「ビートルズ映画『ゲット・バック』 未公開映像に興奮」

後編「映画『レット・イット・ビー』の誤解、新作への期待」>>

ひろた・かんじ 1952年愛媛県松山市生まれ長崎育ち。山梨県立大学講師などを経て,作家・現代史研究家。日本文芸家協会会員。『大人のロック!』(日経BP/ビートルズ関連)、文芸別冊(河出書房新社/ロック関連)、ムック版『MUSIC LIFE』(シンコーミュージック/ビートルズ関連)などの執筆・編集・監修などを担当。主な著書に『ロック・クロニクル/現代史のなかのロックンロール(増補改訂版)』(河出書房新社)などがある。
エンタメ!連載記事一覧