19年1月30日の製作発表では、新しい映画は「タイム・マシーンに乗って1969年に戻り、スタジオで4人がすばらしい音楽を作っている現場に居合わせたような体験が楽しめる作品で、時空を超えたライブビューイング・ショーだ」とも語っていた。旧作映画『レット・イット・ビー』がビートルズ解散へと至るドキュメンタリーのごとく見られていたのに対して、今回の新作映画『ザ・ビートルズ:Get Back』は「解散」とはまったく別の視点、後期ビートルズのアルバム創作過程とライブを体験するエンターテインメント作品になると宣言しているのだ。

崩壊の淵にあったチーム「ビートルズ」

異なる視点で描かれるとはいえ、新作映画は旧作映画と同じ素材を使って製作されている。ビートルズ解散の前年69年1月に行われた、いわゆる「ゲット・バック・セッション」で撮影された大量の映像とレコーディングテープだ(ゲット・バック・セッションについては後述)。新旧2本の映画の違いをより深く知るためには、このセッションの内容を具体的に検証する必要があるが、その前にセッションへと至る経過と背景を概観しておこう。

ビートルズが世界的成功を収め不朽の名盤やヒット曲を次々に発表できたのは、ジョン、ポール、ジョージ、リンゴという4人の希有な才能が奇跡的に融合したからにほかならない。だが、だが、彼らを支え動かす人々が作り上げた「ビートルズ」というチームの存在なしに、20世紀最大といわれるほどの成功を収めることはできなかっただろう。その中心にいたのは、ライブ時代のメンバー4人を制御し世界的成功へと導いたマネジャーのブライアン・エプスタインであり、4人のイメージするサウンドを作りあげレコーディングの基礎から極意までを伝授した音楽プロデューサーのジョージ・マーティンだった。

66年8月にライブ活動を停止した後も、ビートルズはロックをアートに変えたアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』を発表するなど、音楽革命を継続していた。だがライブ活動がなくなったことで4人が行動を共にする機会は激減し、「ビートルズ」というチームも変容し始める。

67年8月、エプスタインが処方薬の過剰摂取で他界。車輪をひとつ失った「ビートルズ」は迷走を始める。その後、ポールが中心になって自分たちだけで映画『マジカル・ミステリー・ツアー』を製作したり、ジョージ主導でインドへ瞑想(めいそう)の旅に出たりするが、いずれもメンバー間にしこりを残してしまう結果に。やがてジョンは前衛芸術家オノ・ヨーコとの活動に前のめりになり、他のメンバーも自分のやりたい仕事を優先するようになる。

そして68年5月30日から10月17日に行われた『ザ・ビートルズ』(ホワイト・アルバム)のレコーディング時に、その問題が顕在化したのだ。

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