謎多きガ

サートレイ氏は2020年9月、ニューメキシコ州を流れるペコス川の岸でこのガを捕獲した。何の種なのかわからなかったので、虫の種を調べられる米アイオワ州立大学昆虫学科のウェブサイト「BugGuide」の編集者であるボブ・ビアジ氏に写真を送った。すると、こんな返事が返ってきた。「この写真を、私たちは少なくとも130年間待っていました」

河原氏によると、同じヤガ科の中には、ロングトゥースト・ダートモスとかなり似た外見をしている種がいくつかあるそうだ。いずれも小さな茶色のガで、専門家でも見分けるのは難しいという。これまでほとんど研究されてこなかったのは、そのためだった。

幼虫は、ネキリムシと呼ばれる。その名の通り、夜になると土から出てきて、芽が出たばかりの植物の茎をかみ切ってしまう。一部の種は農業害虫とされているが、ほとんどは農作物には無害であると、河原氏は言う。

成虫はコウモリのエサになり(「とりわけ肉厚なんです」と河原氏)、夜に咲く花の花粉を媒介する。ガが授粉に果たす役割は、チョウやハチと比べると見過ごされてしまうことが多いと、河原氏は言う。

地球上には、知られているだけでおよそ16万種のガやチョウがいるが、その他にも未記載の種が約20万種はいるだろうと言われている。「あまり知られていない昆虫が、まだまだたくさんいます」と、ニューメキシコ州立大学の昆虫学教授スコット・バンディ氏は言う。

なかでもニューメキシコ州には、多くの未記載種がいるとされている。その理由のひとつは、南西部にあるニューメキシコが合衆国の州に昇格されたのが1912年と、比較的最近であるためだ。東部の州では、数百年前から昆虫学者が種の記載を続けてきた。

「そこが、私にとってはたまらなく面白いんです。ここに生息しているものだけでも、まだたくさん研究することがありますから」とバンディ氏。

昆虫に迫る脅威とその対策

最近の研究によると、ガとチョウは他の昆虫よりも速いペースで減少しているという。多くの種は、発見すらされないうちに絶滅してしまうかもしれない。

ガにとってとりわけ深刻な脅威は気候変動であると、河原氏は指摘する。気温の変化が激しければ、幼虫が混乱して、いつさなぎになればいいのかわからなくなる。また、森林火災も増え、多くの幼虫が生きたまま焼かれてしまう。

もうひとつの脅威は光害だ。月の光を頼りに移動する夜行性のガは、人工的な光に惑わされ、その周りを何度も円を描いて飛んでいるうちに体力を消耗し、簡単に敵の餌食になってしまう。

「PNAS」の論文で河原氏は、ガやその他の昆虫のためにできる簡単な8つの行動を挙げている。例えば、夜には会社や自宅の電気を消したり、地域に固有の植物を植えるといった小さなことでいい。

また、もっと周囲の世界に興味を持ってほしいと呼びかける。スマートフォンを持って外に出てみよう。石をひっくり返したら、その下にどんな虫が見つかるだろうか。それを写真に撮って、シェアしてほしいという。一般の人々によるこうしたデータが、科学的な研究の助けになる。特にパンデミックの今は、科学者たちが直接行って現地調査をするのが難しくなっている。

河原氏は、最後にこう言った。「多くの写真家が、人気の大型動物ばかりに注目するのではなく、数えきれないほどたくさんの種類の、びっくりするような生きものが、家のすぐ裏にもすんでいるのだということに気付いてほしいと思います」

(文 CHRISTINE DELL'AMORE、訳 ルーバー荒井ハンナ、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック ニュース 2021年2月15日付]

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