画面の角度が変えられるスタンドが人気
評価ポイントの2番目は、CQ1ラインは「音もいいテレビ」である点だ。昨今の大画面テレビは、あたかも映像が宙に浮いているような視聴体験を実現するため、ディスプレー周辺の額縁(ベゼル)を狭くデザインしている。構造上バックライトが不要な有機ELテレビの場合、ディスプレーの薄型化にこだわった製品も多くあるが、それだとしっかりとした音を再生できるスピーカーを組み込みづらい。
CQ1ラインでは、パネルのボトム側に開口部を下向きにした中音域用スピーカーユニットを配置した。さらに音をテレビの前方へ回り込ませるリフレクター構造による、独自の「フロントオープンサウンドシステム」が特徴だ。開口部を前向きにした高音域用のツイーターと合わせて、人の声がとても聞きやすく、空間表現も豊かな内蔵スピーカーのサウンドに好感を持った。
大画面テレビの映像と音をより快適に楽しめるように、専用のテーブルトップスタンドに左右30度の回転機構を搭載し、テレビ正面の角度を変えられる機能も人気だ。また部屋の空きスペースを有効活用して大きなテレビを置きたいという期待に応え、インテリアブランドのナカムラ(東京・大田)と共同で壁寄せタイプのテレビスタンドも開発した。この「WALL S1」は、ハイタイプとロータイプの2種類ともに税込み3万円台前半という値ごろ感もあり「発売直後からよく売れている」と廣井氏。
Android TV搭載もコロナ禍中に脚光
3番目の評価ポイントは、CQ1ラインがAndroid TVを搭載している点だ。インターネットに接続すれば、スマホのようにアプリをインストールしてVODサービスやゲームなどが楽しめる。廣井氏は自宅のテレビに「どうぶつ実寸図鑑」アプリなど、子どもと一緒に楽しめるコンテンツをインストールして、子育てにも活用しているという。
新型コロナウイルス感染症の影響が広がったことから、多くの人々にとって自宅で過ごす時間が増えた。それに伴ってVODコンテンツを手軽に楽しめるテレビがよく売れている。鈴木氏はシャープが行った調査の結果について触れ、20年5月から7月にかけてAQUOSシリーズのスマートテレビでVODコンテンツの利用率が大きく伸びたと話す。
国内ではテレビのインターネット接続率が長らく伸び悩んでいたが、サイバー・コミュニケーションズ(東京・中央)が19年12月と20年6月に実施した動画配信サービス利用実態調査の結果によると、テレビをインターネットに接続して動画を視聴していると答えた人の数は半年間で大きく増えたという。現在はNetflixやAmazonプライム・ビデオ、ひかりTVをはじめ4K高画質のVODコンテンツをそろえる動画配信サービスも伸び盛り。何よりスマホなどのモバイル端末で「動画を見る習慣」が、年代を問わず国内の人々に定着しつつあるのだろう。
シャープには、4Kテレビと自社スマート家電との連携によるエコシステムを特徴として打ち出せる強みもある。CQ1ラインもホームネットワークにつながるスマート家電の動作状況を、テレビの画面でモニタリングできる機能を備えている。市場でCQ1ラインの存在感を際立たせるには、画質の良さに加えてスマートテレビとしての先進性もさらにアピールすべきだろう。
国内で11年に地上アナログ放送が停波を迎えてから間もなく10年になる。より高画質で多機能なテレビへの買い替えを検討している家庭も多いだろう。
CQ1ラインは3機種いずれも価格はオープンだが、21年2月上旬の実勢価格は65型が30万円前後、55型が20万円前後、48型が18万円前後。発売当時に比べて価格はまた一段とこなれたようだ。そこにシャープが液晶テレビで培った技術を注ぎ込んだ、有機ELの特長を生かした丁寧な絵作りと、Android TV搭載のスマートテレビを備えていることを考えれば、今になってその実力が認められて勢いづいてきたことにも合点がいく。
CQ1ラインも発表からもうすぐ1年を迎える。鈴木氏が冒頭で述べた、有機ELを液晶に並ぶテレビの柱として本気で育てるつもりなら、恐らく“次の一手”に向けた施策も進んでいるに違いない。液晶と有機ELの両輪をそろえて20周年を迎えたAQUOSを含むシャープの薄型テレビが、21年はどんな展開を見せてくれるのか楽しみだ。
(文・写真 山本敦)
[日経クロストレンド 2021年2月5日の記事を再構成]