映画『さんかく窓の外側は夜』 絶妙に新しい怪奇物語

公開中の映画「さんかく窓の外側は夜」は、霊が見える体質に苦しんできた三角康介と除霊師の冷川理人がコンビを組んで殺人事件の真相解明に挑むストーリーだ。累計130万部を超えるヤマシタトモコのマンガを実写化。監督は人気CMディレクターで、2018年に映画デビューを果たした森ガキ侑大が務めた。
「マンガ原作は初めてで、ホラーやミステリーにもあまり触れてこなかったので、依頼を受けたときは『自分にできるのだろうか』と悩みました。決意したのは、自分がやりたいものばかりやると、世界が広がらないと思ったから。不安に立ち向かうことで、新しい技や表現が見つかるかもしれないと考えました」(森ガキ監督、以下同)
脚本はドラマ「トレース~科捜研の男~」の相沢友子。相沢には3つの要望を出したという。「派手なエンタテインメント路線に寄りすぎると、キャラクターの葛藤やドラマを描けないまま終わってしまう。かといって、葛藤ばかりに焦点を当てると地味になるので、派手な部分を作りつつ、三者三様の葛藤を描きたいと話しました。また、原作が表現する"穢(けが)れ"を現代に置き換えて浮かんだのが、言葉の暴力。SNSでの誹謗(ひぼう)中傷を盛り込むことでリアルな問題について考えてもらえたらいいなと。3つ目は、事件のグロテスクな部分も描くこと。そこがないと、原作が放つ怖さが伝わらない気がしました」
冷川役に岡田将生、三角役には志尊淳を起用。非浦英莉可役には元欅坂46の平手友梨奈を選んだ。「原作にはBL(ボーイズラブ)の要素もある。"気づいたら距離が近づいている"など、さりげない表現を入れ、今までにないBL映画にしたいなと思いました。それには中性的な人が合うと考え、選んだのが岡田君と志尊君です。平手さんは英莉可と髪形も近いし、何か陰を感じさせる雰囲気も似ている。原作を読んだ時から平手さんでと考えていました」

こだわったのは、リアルとファンタジーの境界線上にある世界を描き出すことだったという。「霊が見えて、霊をはらえるというファンタジー。でも、もしかしたら本当にこういう人たちがいるんじゃないかと感じてほしくて、美術や衣装などにこだわりました。あと、幽霊より人間のほうが穢れていると思ったので、人間は黒、幽霊は白をメインに造形しました」
完成作はスタイリッシュだが、昭和の怪奇映画を思わせアナログ感もあり、絶妙な新しさを感じさせる。「新しすぎると、アートに傾いてしまう。観客がストーリーを楽しみつつ、美術やライティングなどで芸術的要素を体験してもらえるものにしたいと挑戦した結果です。また、最近の日本映画ではやってないような表現をしたいと考えて、タイトルが入る場所をずらしたり。ほかにもズラしを入れて、予定調和にならないようにしましたね」
(「日経エンタテインメント!」2月号の記事を再構成 文/泊貴洋)
[日経MJ2021年2月5日付]
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