チョコと塩とのいい塩梅 ソルティホットで一服いかが
魅惑のソルトワールド(50)
2月といえば「バレンタイン」。何となく誰ソワソワしている方も多いのではないだろうか。日本で流行するようになったのは製菓会社が仕掛けたキャンペーンだったが、これが一大イベントへと発展し、もう半世紀以上になる。今やすっかり季節の風物詩の一つとして定着した感があるが、そのスタイルも当初の女性から男性に贈るという図式から、その逆だったり、友達同士や家族、はたまた自分へのご褒美チョコだったりと進化を重ねている。
「五基本味」と呼ばれる味がある。「塩味」「甘味」「うま味」「酸味」「苦味」だが、このうち「甘味」「塩味」「うま味」は、誰でもおいしく感じる。塩味は身体の基礎機能を担うミネラルの味で、甘味はエネルギーの源となる糖分の味、うま味はたんぱく質のもとになるアミノ酸や核酸に由来する。脂肪・油分は人が生きる上で必要な栄養素で、エネルギーにもなる。
それはさておき、本能的においしく感じるチョコに決定的に足りないものがある。そう、塩味である。塩は生命維持に必要なミネラルの味わいなので、チョコに塩を足すことは、ある意味、本能への訴えかけをより強化する手法といえなくもない。
和菓子や焼き菓子などの原材料をチェックしてみれば分かる。「えっ、こんなものにまで」と驚くほど多くの菓子類に塩が使われているからだ。
塩味と甘味は対極の関係にあり、加える塩の量は糖の種類や濃度によって変化するが、一般に約0.15%~0.2%程度で十分な効果を発揮する。塩を少量入れることで対比効果が発揮され、塩味が消える代わりに甘味にスポットライトがあたり、際立つからである。「隠し味」であり、「スイカに塩をかける」ワケと同様だ。
塩味には苦味を抑制する働きもある。チョコの苦味を弱めるので、より万人に受け入れられやすい味わいになる。塩味はうま味や甘味の輪郭をはっきりとさせる働きもある。チョコのコクが増し、大人味に変化するため、チョコと塩はとてつもなく相性が良いことがお分かりいただけるだろう。
店頭には塩を用いたチョコが数多く並んでいる。たとえばミルクチョコにアーモンドペーストと焼き菓子、そして塩を練り込んだ「ソルティプラリネ」や、キャンディコーティングしたアーモンドを焼き菓子と塩入りチョコでくるんだ「塩クランチ アーモンド」などである。
「甘味としょっぱさのバランスが癖になる」と評判のミルクチョコの表面に、「石垣の塩 天日干し」を散らした「石垣の塩チョコレート」なども登場している。有名パティシエたちもこぞって塩を活用するようになり、大阪初のチョコレート専門店として創業したエクチュアの「塩チョコレート(ビター)」は定番の人気商品となっている。
有名ショコラブランドが一堂に会するチョコレートの祭典「SALON DU CHOCOLAT」でも、必ずといっていいほど塩を使ったチョコが並ぶ。まさに、それはチョコと塩の組み合わせが絶妙であることの証拠に他ならない。
コロナ禍で在宅時間が長くなっている昨今だが、今回は自宅で簡単に楽しめる塩とチョコレートを使ったドリンク「ソルティホットチョコレート」を紹介しよう。
ホットチョコレートの起源は、1847年のイギリスらしい。ココアパウダーを生産する際に出る副産物、ココアバターを活用するために作られたもので当初は、「チョコレート」といえばこの「ホットチョコレート」を指していたようだ。
「ソルティホットチョコレート」の作り方はいたって簡単。まず、ミルクチョコ50gを包丁などで細かく刻む。次に牛乳160ccを鍋に入れ、泡立て器などでかき混ぜながら温める。沸騰させてしまうと膜ができてしまうため、沸騰させない程度にとどめるのがポイント。牛乳が温まったら火を止め、刻んでおいたミルクチョコを1/3ずつ順次加えて、よく溶かす。最後に、塩をひとつまみ入れ、かき混ぜたらできあがりだ。
牛乳があまり好きでない方や、チョコの味だけを純粋に味わいたい方は、お湯で作ればいい。その場合、ミルクチョコよりも少しカカオの構成比が高いビターなタイプのチョコを使うといい。作り方は牛乳の場合と同じで、鍋にお湯120ccを沸かし、沸騰したら火を止め、そこに刻んだビターチョコ30g~40g程度と塩ひとつまみを入れ、よく溶かせばOK。チョコの風味がストレートに感じられ、後味の切れもいい一杯になるはずだ。
鍋を使うのが面倒ならば、マグカップに牛乳またはお湯を注ぎ、電子レンジで加熱し、そこにチョコを加えるという手もある。この場合、チョコをよく溶かすため底のほうからしっかりとかき混ぜる。
いずれの場合も注意してほしいのは、チョコを加えてから加熱しないこと。チョコは高温にさらされると結晶構造が崩壊し、油脂であるカカオバターとその他の水溶性成分が分離し、口当たり、味わい、風味どれも大幅に劣化してしまうからだ。温めるのはあくまで液体の部分だけ。そこにチョコを溶かし込むということを是非、忘れずにいてほしい。
ホットチョコレートにどんな塩を入れるかでも味わいが変わる。細かい結晶の塩を選べば、溶け残りがない。全体の味を引き締め、甘さをしっかり引き出すためには、ナトリウム構成比の比較的高い塩がおすすめだ。
ビターチョコを使用した苦味のあるチョコレートドリンクの場合には、塩自体にも少しマグネシウムが多いものを選ぶと、苦味がうまみに変わっておいしい。最初から塩をいれずに、飲んでいる途中にふりかけながら、味わいの変化を楽しむというのもいい。あなたの本能に訴えかけながら、ココロとカラダをきっと休めてくれるに違いない。
おうち時間が長い昨今、自宅で手軽に楽しめるソルティホットチョコレートを、バレンタインデーのプレゼントとして楽しんでみてはどうだろう。
(一般社団法人日本ソルトコーディネーター協会代表理事 青山志穂)
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