2021/2/13

巨大魚にとってのごちそう

1974年、あるドイツ人の釣り人が、ヨーロッパオオナマズの稚魚数千匹をスペインのエブロ川に放した。また、別の釣り人たちも、この巨大魚が釣れるようになることを期待して、他の国々の川でも同じことを行い、ヨーロッパオオナマズは急速に増えた。

多くの侵略的外来種と同様に、ヨーロッパオオナマズは、人間が変えてしまった川で繁栄する。こうした川は水温が高く、酸素濃度が低いため、在来種がすでにいなくなっているかもしれない。しかも、ヨーロッパオオナマズは成長が速く、寿命も長い(おそらく最大80年)。メスは一度に数十万個も卵を産み、簡単に繁殖する。

だが、最も恐ろしいのは、その狩りの技かもしれない。すべてのナマズと同様、ヨーロッパオオナマズは、感覚器官が非常に発達している。特に、獲物の振動を検知する能力は素晴らしい。さらに、「新しい食料源に適応する驚きの能力」も併せ持つ、とサントゥール氏は言う。同氏は、ヨーロッパオオナマズが、別の侵略的外来種であるタイワンシジミを捕食する方法に関する論文を2020年9月に学術誌「Cybium」に発表した。

ヨーロッパオオナマズは、歴史的に捕食者がほとんどいなかったタイセイヨウサケや、原始的な無顎類の魚でヨーロッパでは絶滅の恐れのあるウミヤツメ、商業的価値の高いアリスシャッドなど、海から川に遡上して産卵する遡河回遊魚を重点的に狙う。

また、陸上のハトを捕まえるなど、原産地では見られない新たな狩りの方法を身につけた。

フランスのガロンヌ川では、水力発電所を通り抜けるための魚用トンネルの中で待ち伏せして、遡上するサケを捕食することもある。

さらに2020年11月に学術誌「Aquatic Ecology」に発表された論文によると、同じくガロンヌ川で、アリスシャッドが求愛ディスプレイに夢中になり、夜間に水面で産卵するところを狙うことも学んだようだ。この研究によると、250匹以上のヨーロッパオオナマズの胃の内容物を調べた結果、獲物の種類のうち9割近くをアリスシャッドが占めていることが明らかになった。アリスシャッドは「巨大魚にとってのごちそう」なのだ。

「こうした研究のすべてが、同じ結論に達しています。つまり、ヨーロッパオオナマズは、重要な存在である通し回遊魚にとって、深刻な脅威になっているのです」とサントゥール氏は話す。

しかし、ヨーロッパオオナマズが害を与えない種が1つある、と同氏は付け加える。私たち人間だ。幅広の頭を持ち口が大きく開くヨーロッパオオナマズは、人を襲って殺すこともあるという噂はあるものの、「ヨーロッパオオナマズは無害で人に対して好奇心が強く、ガロンヌ川では、泳いですぐ側まで近寄ることができます」と同氏は話す。

巨大魚の例外

大型魚類の侵略的外来種が淡水生態系を壊す例は、他にもある。国際自然保護連合(IUCN)によれば、固有種の乱獲による不漁を補うために1950年代に東アフリカのビクトリア湖や他の湖に持ち込まれたナイルパーチは、1980年代までに少なくとも固有の魚200種を絶滅に追い込んでしまった。

しかし、たいていの場合、大型淡水魚は減少しつつあり、侵略的外来種や生息地の喪失、乱獲の脅威にさらされている。2019年の論文によると、しばしばメガフィッシュとも呼ばれるこうした種は、世界的にも減少しており、1970年以降なんと94%も減ったという。

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気候変動による生態系の変化
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