風景丸ごと一度に撮影 ベクノスのペン型カメラIQUI
リコーの人気製品「THETA(シータ)」の"生みの親"がベンチャー企業を立ち上げ、新たな全天球カメラ「IQUI(イクイ)」を開発。"究極のシンプル"を目指したという、ペン型デバイスの狙いを探った。
ポケットからさっと取り出し、今見ている景色をすべて写せる――。2020年10月に発売された「IQUI」は、周囲360度を一度に撮影できる「全天球カメラ」だ。
開発したのは、リコーが出資するベンチャー企業のベクノス(横浜市)。最高経営責任者(CEO)の生方秀直氏は、13年にリコーから発売された世界初の全天球カメラ「THETA」の生みの親でもある。
既存のTHETAはパーソナルユースだけではなく、賃貸物件の"360度VR内覧"などのバーチャルツアー作成サービス「THETA360.biz」を中心にビジネス方面での事業も展開。19年5月にはハイエンドモデル「THETA Z1」が発売されるなどラインアップも充実している。
ただ、THETAが切り開いた全天球カメラという新市場は、一般的に普及しているとはまだまだ言い難い。IQUIは全天球カメラの開発スキルを活用しながらエンタメ要素を強くし、市場の裾野を広げる狙いで、戦略的にエントリー層を意識したという。「従来の型にとらわれない発想やスピーディーな開発など、エンタメ方面に舵(かじ)を切った新たな挑戦に取り組むには、ビジネス方面に軸足を置くリコーからベンチャーという形で飛び出す必要があった」(生方氏)
目指したのは"究極のシンプル"だ。ペン型の本体にはIQUIの特徴でもある4眼レンズと極小のボタンがあるだけ。バッテリー残量や撮影枚数、カメラ設定などを確認するようなディスプレーもない。
スマホと一緒に持ち歩くことを狙った小型・軽量デザインだが、実はIQUIのペン型という形状は初代THETAのコンセプトの1つに入っていたという。「当時は実現できなかったが、様々な技術革新や外部のパートナー企業の生産技術を使うことで、時を越えてようやく形にすることができた」(生方氏)
操作系もシンプル。本体のシャッターボタンを押すと、連係しているスマホの専用アプリ「IQUISPIN」上に撮影された全天球写真が並ぶ。撮影した画像は専用アプリやGoogleフォトなどで楽しめるほか、様々なエフェクトをかけたショートビデオに変換できる。全天球写真がくるくると回転したり、シャボン玉や雪のエフェクトが舞ったりするショートビデオはインスタグラムなどのSNSで共有することが可能だ。
一般的なデジカメとは異なる操作性も狙いの一つ
画像データはスマホアプリとの接続時に自動転送され、本体には残らない仕組み。従来のTHETAや一般的なデジタルカメラを使い慣れてきたユーザーはやや戸惑いそうだが、これも狙いだという。「撮影した画像データがIQUI側にあるのか、スマホ側にあるのか。そういうことを使用者に一切意識させない設計」(生方氏)。画質やシャッタースピードなどの設定もすべてフルオート。操作系をシンプルにすることでスナップ用途に特化しているのが特徴だ。
実際に撮影した全天球写真の解像度は5760×2880と、THETAのエントリーモデルと同レベルの印象。満充電で約100枚の撮影が可能なので、日帰り旅行程度であればバッテリーの心配もいらない。
課題は動画撮影機能だ。1度に最大30秒の全天球動画を撮影可能で、「動画の転送」設定をオンにしておけばスマホ接続時にデータ転送される仕組み。ただ、1つの動画を転送するのに数分かかる場合があり、接続エラーになることもたまにあった。動画転送機能については、今後さらにソフトのアップデートを行う見込みだという。
エントリーモデルをうたうだけあって、実勢価格は3万2780円(税込み)と手ごろに抑えられている。THETAのハイエンドモデルのような高精細さは望めないが、圧迫感のないペン型ボディーで自然な雰囲気で撮影できるというのは、IQUIならではの強みと言えそうだ。
(日経トレンディ 佐々木淳之、写真 高嶋一成)
[日経クロストレンド 2021年01月18日の記事を再構成]
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