NiziU、デビュー前からなぜ人気 成功の秘密を解説
2020年12月2日にシングル『Step and a step』で正式デビューを果たした「NiziU(ニジュー)」。韓国の最大手事務所の1つでTWICEや2PM、Stray Kidsらを擁するJYP ENTERTAINMENT(以下、JYP)と、ソニー・ミュージックエンタテインメントによるオーディションプロジェクト「Nizi Project」が、デビューメンバーを発表したのは、6月26日のこと。以降、約5カ月で、デビュー前にもかかわらず日本の"国民的"グループとして一気に台頭した。昨年末には『第71回NHK紅白歌合戦』に史上最速で出場し、『第62回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)で特別賞を受賞した。「『現代用語の基礎知識』選 2020ユーキャン新語・流行語大賞」のノミネート語30にも選出され、"2020年の顔"としての強い存在感を放ったことは記憶に新しい。
この成功はどうやって作られたのか。改めてその足跡を振り返ってみる。
"日本流"のオーディション
デビュー前の熱量を作る最大の仕掛けは、誕生に至るまでのオーディションを見せたところにある。
JYP所属のTWICEや2PMなどのグループも、デビュー前にサバイバルオーディション番組の過程を踏んで選ばれたメンバーから成るが、すでにダンスや歌のレッスンを重ねてきたJYPの練習生たちであり、今回のNizi Projectとはそもそものスタート地点が違う。
プロジェクトリーダーを務めるJYPの創設者・J.Y. Park氏は、日経エンタテインメント!の19年5月号でこう語っている。「マーケティングの側面で言えば、日本では違う見せ方をする必要があります。韓国ではデビュー前にある程度育成してから世に出しますが、日本はアイドルが育っていく過程を一緒に応援するという文化があります」。その見方どおり、日本では実力の足りない出場者たちがデビューをつかむために努力を重ね、壁にぶつかりながらも成長する姿が視聴者の心を揺さぶり、共感の輪を広げていった。
番組本編の配信は20年1月末からHuluで始まったが、同時期に日本テレビ系『スッキリ』で特集コーナーの放送も開始することで、一般層への浸透も進んだ。さらには、マツコ・デラックスや賀来賢人、指原莉乃ら、Nizi Projectにハマっていると公言する有名人が次々に登場し、インタビューや番組、SNSなどでプロジェクトの面白さを熱弁。その後、3月からはYouTubeでも番組を公開し、「Nizi Projectって何だろう?」「面白そう」と興味を持った層が気軽にコンテンツを視聴できる環境は万全に整えられたと言えるだろう。
J.Y. Park氏の言葉の力
もっとも、公開オーディション番組そのものは、日本でも目新しいコンテンツではない。ただ、今回の場合、"+α"として効いたのが、J.Y. Park氏の存在だ。
褒め方のバリエーションが豊富で、厳しい言葉もモチベーション向上につながる表現をする。番組の中でメンバーに投げかける言葉は、出場者の個性を見極め、可能性を引き出すことを後押しするものだった。その言葉の1つひとつが"金言"としてSNSをにぎわせ、J.Y. Park氏は日本で"理想の上司"の称号まで手に入れた。
通常、オーディション番組では、デビューの合否や挑戦者が努力する姿が最大の見所だが、指導者が発信する言葉の深さや、プロデューサーとして求めるものが見える点が、Nizi Projectを複層的な魅力のあるコンテンツとした。また、J.Y. Park氏の指導方法は、部下を持つ中堅以上の社会人にも役立つと、ビジネス系メディアまでもが注目するところとなった。
成功した"プレデビュー"施策
6月26日、Nizi ProjectのファイナルでNiziUの9人が決定した後、その盛り上がりを冷ますことなく次に展開したスピードも見事だった。ほぼ3日後には、プレデビュー曲としてデジタルミニアルバム『Make you happy』を日韓同時リリースし、翌日には世界配信。日本国内の音楽配信サイトで87冠、海外で23冠、合計110冠を達成した。さらにミュージックビデオ(MV)は8月31日に再生数1億回を突破。ストリーミングでは11月10日に女性グループ初の累計再生数1億回超えが発表されるなど、数々の記録を打ち立てている。
J.Y. Park氏がプロデュースしたリード曲『Make you happy』のフレッシュで明るいダンス・ポップチューンは、JYPが得意とするところ。K-POPに詳しく、自身もNizi ProjectにハマったOKAMOTO'Sのオカモトレイジ氏は、「『Make you happy』は、ど真ん中なポップスだと感じました。メロディーとコード感がとてもシンプルで、60年代風にも90年代風にもアレンジできる。アレンジが効くから、例えば"オルゴール風"でも成立する。オルゴールになっても違和感がないかは、大衆性を得られるか否かのポイントだと思っているんですが、JYPのガールズグループの曲は成立するんです。だから、年代を選ばずに受け入れられているのでしょう」と分析する。
振り付けの"縄跳びダンス"もはやりのダンスとなり、本田翼やTWICEのミナ、kemio、具志堅用高ら有名人がカバーして大ヒットに。プレデビュー曲『Make you happy』だけでも、韓国語バージョンのパフォーマンスビデオや、ファンの掛け声を本人たちが実践するガイド映像など、たくさんのコンテンツが発信された。
"プレデビュー"という言葉は日本では聞き慣れないが、K-POPではよく見られる、正式デビューに向けて勢いをつけていくための手法だ。デビュー前から認知を広げ、盛り上げをつくっていく"貪欲さ"は、日本の音楽業界にとっても売り方のヒントになるのではないだろうか。
10代・20代を中心に幅広い層に認知されたNiziUは、正式デビュー前から、企業タイアップやCMも次々に決めた。11月10日からローソンでは「NiziUデビュー応援キャンペーン」を展開。11月22日からは『SHIBUYA109 XMAS×NiziU』キャンペーンがスタートし、SHIBUYA109をジャック。同時に東京・渋谷店と大阪・阿倍野店ではポップアップストアもオープンした。さらに12月8日からは、ロッテ「Fit's」のテレビCMやプレゼントキャンペーンも開始、コカ・コーラではNiziU限定デザインボトルの販売なども開始した。
エンタメ界で唯一無二の道へ
デビューシングル『Step and a step』のテーマは、「自分らしく、自分のペースで歩んでいこう」。歌詞もMVもエモーショナルだ。映像は白を基調とした世界から、カラフルな世界へ。悩み、つまづきながらも、仲間と手を取り合って前に進んでいくNiziU自身が歩んできたストーリーそのものでありながら、聴く人への応援ソングにもなっている。
楽曲のサビではキュートな"うさぎダンス"を披露。こちらも新たな流行をつくりそうだ。『Step and a step』『Make you happy』以外の2曲の収録曲は、『Joyful』と『Sweet Bomb!』。前者はエネルギッシュなポップナンバーで、後者はアグレッシブな楽曲。趣の異なる4曲それぞれで、彼女たちのポテンシャルの高さを見せてくれるに違いない。
Nizi Projectは、JYPの企業ビジョンの1つ、「GLOBALIZATION BY LOCALIZATION」に基づき、韓国以外の国でK-POPのノウハウで人材育成とプロデュースをすることで、世界へ羽ばたくアーティストを輩出しようというプロジェクトだ。大型新星として20年の日本のエンタテインメント界を輝かせた9人だが、本当のスタートはこれから。前代未聞の道を切り開き、今後エンタテインメント界にどんな変化をもたらすのか楽しみだ。
(ライター 横田直子)
[日経エンタテインメント! 2021年1月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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