2021/1/3

写真家はただ記録するだけでなく、もっと込み入った要請に応えなければならなかった。20年には人々の行動範囲が制限されたため、写真が切実に求められた。都市封鎖や人との距離の確保、感染への恐怖が、社会的な交流の形を変えたからだ。職場の会議から文化系のイベントまで、あらゆるものがデジタル形式に変わり、生活のかなりの部分が画面上に移行した。人々が突然、孤立状態に陥ると、ネット上の写真の流れが生活に欠かせないライフラインとなった。

こうした状況下で写真を撮影し、共有するには、技術だけでなく、体に気をつけることも求められた。歴史的な出来事を記録する使命に駆り立てられていても、まずは自分の体を守らなければならない。ジャーナリストであっても、ほかの人々と同じように行動を制限され、動き回れば感染のリスクがあったからだ。

さらに、カメラを向ける相手への倫理的な配慮も求められた。コロナ禍のさなかでは誰も安全ではなく、誰もが不安を抱えている。それでも冒頭の新婚カップルのように、誰もが前に進む方法を模索している。それを理解したうえで、撮影に臨まなければならない。

大量の写真が世の中にあふれるこの時代、後世の歴史家のために資料を収集するには恵まれた環境が整い、豊富な記録が残され、数々のストーリーが伝えられるだろう。2020年が終わっても、ウイルスは姿を消したわけではない。人間社会に定着し、あらゆる国、あらゆる都市の歴史の一部となる。

私たちは先が見えないこの時代をどう生きればいいのか。20年は予定が次々に中止になり、制限だらけの暮らしへの適応を迫られた年だった。マスクを着用し、親きょうだいともオンラインでつながり、新学期の始まりを控えて、新型コロナに対応する授業形式が大急ぎで準備されるなか、親たちは子どもを学校に送り出すべきか否かの決断を迫られた。人との距離の確保が求められる時代に、人々はどんな家庭生活を送ったのか。この分野の写真も状況の変化を伝えている。

問題の根源を探っていくと、「信頼」という言葉に突き当たる。新型コロナウイルスは無症状の人からも感染する。誰からうつるかわからないし、自分も誰かにうつしているかもしれない。そうなると、誰とも安心して付き合えなくなる。

20年の出来事や人々の暮らしを、レンズを通して見つめるのは困難な仕事だった。倫理的にも、移動の自由や物資面でも、感情的にも。だが目をそらすわけにはいかなかった。なぜなら、私たちには記録する責務があるのだから。それに、見ること、解釈すること、理解しようと努めることは、人間の営みだからでもある。

いつか気づくかもしれない。20年は私たちに「見ること」を教えてくれた、と。

20年9月19日:リベラル派の米連邦最高裁判所判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ氏が9月18日、87歳でこの世を去った。その死を悼む催しは、ここミシガン州のほか、全米各地で行われた。1993年に当時のビル・クリントン大統領の指名で最高裁判事に就任したギンズバーグは、それよりずっと前から性差別と闘い、後に続く女性たちのために道を切り開いてきた。法律家としての輝かしいキャリアを通じて男女平等の実現に奮闘し、大きな成果を上げた(PHOTOGRAPH BY ANDREA BRUCE)

(文 シッダールタ・ミッター、日経ナショナル ジオグラフィック社)

[ナショナル ジオグラフィック 2021年1月号の記事を再構成]

[参考]ナショナル ジオグラフィック日本版2021年1月号は、新型コロナウイルスを中心に揺れ動いた2020年の世界を、世界の写真家が独自の視点で切り撮った写真で振り返ります。ここでダイジェストで紹介した文と写真は、その中の一つです。ロックダウン(都市封鎖)、大規模な森林火災、社会の不平等への抗議から、新たな生活様式や考え方、互いを癒やす方法など、コロナの先にある未来へ希望まで写真とグラフィックで紹介します。Twitter/Instagram @natgeomagjp
  • 著者 : ナショナル ジオグラフィック
  • 出版 : 日経ナショナルジオグラフィック社
  • 価格 : 1,210円(税込み)

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