ロックダウンの世界8都市 地震計がとらえた静寂

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

ニューヨークのジェイコブ・K・ジャビッツ・コンベンション・センターの近くに、ロングアイランド鉄道の空っぽの列車が停められている。ジャビッツ・センターは現在、COVID-19の仮設病院として使用されている(PHOTOGRAPH BY JASON LECRAS)

人間の活動は、さまざまな音を立てる。道路を走る車、頭上でとどろく飛行機、歩けば足音も響くだろう。これらの活動は地中で無数の小さな振動を生み出す。世界中に張り巡らされた地震計のネットワークは、そうした振動を年中無休で記録している。

ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを受け、世界のリーダーたちが市民に自宅待機と社会的距離の確保を要請した結果、こうした日常生活の雑音はかなり小さくなったようだ。

地面の振動がやむことはこれまでもあったが、ほとんどの場合、ごく短期間だった。しかし、COVID-19は世界の人口密集地帯に長期間の静けさをもたらしている。各地の地震計ネットワークは、その変化をつぶさにとらえていた。

「私たち地震学者には人々の動きが見えるのです」と、ベルギー王立天文台の地質学者トーマス・ルコック氏は語る。

背景雑音が減少したことには別の利点もある。騒音にかき消されていた現象をより詳しく研究できることだ。

世界各地の静寂

ルコック氏は、自宅待機が地面の振動に及ぼす影響を家族や友人に見せるため、地元ブリュッセルにある観測所のデータを分析し、Twitterに投稿した。同様のパターンに気付いたのはルコック氏だけでなく、Twitterにはほかのデータも投稿されていた。これらのデータは世界中の科学者の関心を引き、スイス、スペイン、イタリア、英国、中国、ネパール、米国、ニュージーランドなどの都市で騒音低減の追跡が始まった。

「まだ低いままです!」。ルコック氏は2020年4月6日、ブリュッセルの騒音低減が続いていることを上機嫌にツイートした。ルコック氏は前例のない現象だと考えている。「世界規模でこのようなことが起きたのは初めてだと思います」