山本耀司氏に聞く コロナで変化、ファッション界の先

日本人デザイナーとして唯一、パリで開いた山本耀司さんのレディース・ファッションショー(10月、パリ市庁舎で)
日本人デザイナーとして唯一、パリで開いた山本耀司さんのレディース・ファッションショー(10月、パリ市庁舎で)

新型コロナウイルス感染症の拡大や世界経済の構造変化がライフスタイルや働き方に変化をもたらし、衣類の着こなしや消費行動にも大きな影響を与えている。今年10月2日のパリ・コレクションで日本人デザイナーとして唯一、ファッションショーを敢行した山本耀司さん(77)にコロナ時代の今、服を着こなす意義や服作りのあり方について聞いた。

――コロナ禍の影響でファッションショーが相次いで取りやめになる中、日本人デザイナーとして唯一、パリコレでショーを開きました。どんな理由からですか。

「フランス国内の感染者は日本より桁違いに多いし、渡航制限もあるので厳しい状況でしたが、パリでのショーは作品をバイヤーやメディアに見せるための重要な真剣勝負の場です。デザイナーとしての自分のレゾンデートル(存在意義)ですから、やめるという選択肢はありませんでした」

「1991年に湾岸戦争が起きた際にも自粛ムードが広がりましたが、ショーを敢行しています。81年にパリでデビューして以来、一度もショーを休んだことはありません。生きている限り、今後もパリのショーは続けるつもりです」

――コロナ対策を徹底するなどショーの手法や形態も様変わりしたようですね。

「ソーシャルディスタンスを保つため、観客同士に1.5メートル間隔を空けて座ってもらったり、スタッフも含めて手洗いやマスク着用をお願いしたり、観客数を3分の1の約200人に絞ったりしました。ただし、ゆがんで破れた服など西洋の美学に反逆する服作りの基本は変えていません。その理念や感動が観客にしっかりと伝わったという感触はあります」

厳重な感染対策の中、準備が進められた

――人々の服の着こなしや買い物の仕方について大きな変化を感じますか。

「急速に変容しています。特に着こなしにこだわりを持つ人が以前よりも少なくなってきた気がします。一つにはコロナ禍が大きな引き金になったようです。中国など新興国の消費者の所得水準が上がり、欧米の先進国にも移民が流入し、世界レベルで中間層が急速に増えたことも背景にあるでしょう」

「一方で各国内では所得格差が広がり、社会的な不満や分断も膨らんでいる。鬱憤晴らしで高級ブランドを買うような消費行動も見られます。特に婦人物に関しては何が次に売れるのか、流行の中心点が見えにくくなっています」

――ファストファッションの伸長についてどう見ますか。

「ファストファッションを買う人は多いですが、服は安ければ良いというものでもない。手作りの服にはコンピューターで作ったものとは明らかに違い、魂や生命力が宿っています。特別なものですから、着こなすのが大変だし、着るための覚悟や気構えが必要になる。作り手にも、着る側にも、まさにそこが試されている気がします」

「服を着こなすのは人間にとって欠かせない文化。服作りの感性や技術をないがしろにするような風潮には強い危機感を覚えます。社会を少しでも良くするため、希望を捨てずに現実と格闘し、考え続けてゆくしかありません」

手作りの服には魂や生命力が宿っていると話す山本耀司さん

――着こなしやライフスタイル、消費行動の変化にはどう対応するつもりですか。

「服作りの基本は不変ですが、売り方はこれから大きく変わってくると思います。コロナ禍でリアルな店舗に来る客が減るなら、ネット販売など非接触型の販売手法にシフトしないといけない。動画のネット配信も有力な発信手段です。地球温暖化など環境問題に対応した服作りや新ブランド設立も検討しています」

――高級ブランドが価格維持のために商品を大量廃棄して批判を浴びるなどファッション業界に対する社会の視線は厳しくなっています。

「商品が大量に売れ残り、セールが常態化しているビジネスモデルはすでに限界を迎えています。会社経営もクリエーターの一つの作品ととらえた方がいい。作家の山口周さんが指摘するように、合理性を追求する『計測可能な指標』だけでなく、経営の『美意識』も問われる時代が来ているのかもしれません」(聞き手は編集委員 小林明)

[2020年12月19日付 日本経済新聞夕刊]

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