講演・演説録や対談集、落語、映画も効果的

同じようにしゃべり言葉を磨くうえで役立つのは、講演・演説録や対談集だ。しゃべった言葉を採録しているから、会話表現のレパートリーを広げるのに効果的だ。聞き手の存在を前提にしているので、書き言葉に比べて、わかりやすい物言いになっているところも隠れた魅力といえる。難解でとっつきにくいと尻込みしていた分野にもトライしやすいはずだ。

講演や対談が上手な人は、一本調子で語ることがない。多くの場合、ストーリーに起伏があり、声の出し方にもめりはりがある。講演・演説録や対談集を声に出して読めば、そうしたリズムや抑揚を、自分の声帯を使って再現できる。

現場での様子を思い浮かべながら、本人になったつもりで音読すれば、その人のしゃべりテクニックまでもらい受けることが可能になる。迷惑を被ることが多いコロナ禍で貴重な実利を得られる機会にもなりそうだ。

独り言のバリエーションはもっと広げられる。語りの芸術である落語は、そもそもしゃべり芸の極みだ。しかも、ありがたいことに歴史的な名高座のレコードやビデオがたくさん出回っている。実際に名演を見たり聞いたりしたうえで、それらをなぞる楽しみが味わえる。

評論家の小林秀雄は語り口が古今亭志ん生にそっくりだったという。志ん生のレコードをじっくり聴き込んで、語り口を学び取ったのだそうだ。

映像との組み合わせを楽しみやすいのは、映画を使う方法だ。台詞を後追いして、なぞるようにして声に出す手が使える。吹き替えの声優が画面を見ながら、台詞を当てはめていく「アテレコ」の自宅版のような方法だ。字幕や吹き替えで親しんできた作品にも、声を重ねて見ると、また別の発見があるだろう。

英語の学びを兼ねたいなら、英字新聞や英語版雑誌を音読する方法も試してみよう。文字では読めていても、発音があやふやな単語を見付けるきっかけにもなる。日本語とは発音・発声が異なるので、のどを多面的に鍛える効果も見込める。日本語ではアクセントやイントネーションをフラットめに整えることが多いが、英語の場合は、強弱やめりはりがはっきりしているから、強い声出しのトレーニングにも役立つ。

朗読やアテレコには、読み上げる素材や機材、迷惑のかからない居場所が必要になる。大したことはないが、多少の手間がかかる。もっと手軽に声を出したいなら、こまめに独り言をつぶやいてもいいだろう。簡単な方法には、動作をそのまま声に出す手がある。「のどが乾いたな」「体操でもするか」「何だかくたびれたな」など、ちょっとした行動の前後に感想を述べるだけだ。典型的な独り言といえる。「さて、どうするかな」「まずはこれから始めよう」など、考え事を口に出す手もある。

「独り言は言わない」という主義の人は少なくないようだ。しかし、声に出すと、自分の考えがあらためてはっきり伝わって、面白いところもある。見付けたり気づいたりするたびに、意識的に声を出してみると、注意力が高まり、発見が増える。「トイレットペーパーがもうすぐ切れそうだ」「何だか腰が痛い」など、これまでは次の瞬間には忘れてしまったような細かい出来事も、意識にとどめやすくなる。「どうして目がかすむのかな」といった声出しは健康状態のチェックにも役立つ。

テレビのニュースやワイドショーに向かって文句をつけたり、突っ込みを入れたりするのは、高齢者にありがちな態度として語られることがあった。偏屈な態度の一例ともいわれがちだが、イラッとした気持ちを声に出すのは、ストレスをため込まないうえで意味がある。

周りを巻き添えにして、不快な気分を感染させてはいけないが、自分の精神衛生を保てるうえ、声出しの機会になるのなら、適度にテレビをやじってもいいだろう。国民の健康を最優先しているとは思えないリーダーたちの言動に、自然と不満を漏らしたくなることも珍しくないのだから。

梶原しげる
 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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