家で味わう旅館気分 おひとり様が楽しい料理道具6選
合羽橋の台所番長が料理道具を徹底比較
合羽橋の老舗料理道具店「飯田屋」の6代目、飯田結太氏がイマドキの調理道具を徹底比較。今回は、個食用の料理道具を取り上げる。業務用だったものが自宅用として爆発的に売れているそうだ。(価格はすべて税別)
◇ ◇ ◇
こんにちは、飯田結太です。新しい生活様式が浸透して、食のスタイルでは大きな変化がありました。大皿料理や鍋を囲むことは少なくなり、代わって注目されているのが「個食」です。一人ずつ好きなものをゆっくり楽しむというスタイル。飲食店でもおひとり様席が増えていますが、それにともなって、今までは旅館などの業務用として流通していた料理道具が町の飲食店で取り入れられるようになり、自宅用としての需要も急増しています。旅館用としての需要を超える勢いなのです。
旅館での食事時間にテーブルに必ず並ぶのが、一人分の肉や魚を焼きながら楽しむ陶板焼きや一人用の小さな鍋もの。旅館で楽しむ膳には、個鍋が満載です。それらは自宅や町の飲食店とは違う雰囲気があり、非日常を楽しむことにつながっていました。この旅館の食文化が日常の食生活になじんできており、スタンダードな食の風景となりつつあります。
今回はそんな新しいブームのなかで注目度が高い個食用の料理道具を紹介します。
しゃぶしゃぶをおいしくする、煙突型銅製鍋
私の大好きな鍋もののひとつ、しゃぶしゃぶ。家でもよく食べますが、しゃぶしゃぶをおいしく楽しむには3つのポイントがあります。1つはだしの温度が常に高温(80度前後)であること。だしの中でさっと肉をゆでて、肉が縮んだり硬くなる前に取り出すのがコツです。
2つめは常に高温を保てる素材の鍋を使うこと。銅製は、料理道具に使われている金属の中で一番熱伝導がいい金属といわれています。最後に煙突型の独特な形状の鍋を使うこと。中心が煙突形状になっていることで、鍋とだしの接する面積が増え、だしの温度が下がりにくくなるんです。煙突部分は空洞になっているので、直接火が届くことも鍋の中の温度を高く保てるポイントですね。
今回おすすめするのはタケコシの「純銅ミニしゃぶしゃぶ鍋セット」。銅製は高額ですが、長く使え、おいしいしゃぶしゃぶが楽しめるので、投資のしがいがあります。
何よりぜいたくな食のひとときを一人で楽しめるのがいいですよね。一人で銅製の鍋を使ったしゃぶしゃぶタイムには憧れます。
旅館食文化の象徴、陶板焼き
旅館での夕食で定番料理となっているのが陶板焼きです。陶板焼きが夕食に出てくるだけで「旅行に来ているんだな」と思うことがありますよね。陶板焼きは直火にかけられる陶器の焼き板で、肉や魚、野菜を加熱して食べる料理。鍋に深さはないので、焼き料理に使われ、一人用として出されるのが一般的です。
今までは旅館の需要しかなかったのですが、2020年は自宅で楽しみたいと購入する人が急増しました。少しだけ、肉や魚、野菜を焼きながらお酒とともに楽しみたいという人に好評です。
陶板焼きといっても、最近の陶板焼き用の鍋は陶器ではなく、扱いやすく、食材がこびりつきにくいフッ素加工のアルミ製のものが主流になっています。しかし一見すると陶器そのもの。マインの「陶板鍋」もそのひとつ。風情があるので、人気なのだと思います。
個食はさみしいかなと思っていたのですが、こんな旅館スタイルの料理が食卓にあればワクワクしますね。
すき焼きも個食の時代
今、鉄鍋ブームがきています。鉄鍋は食材に鉄の成分が微量加わることで鉄分を補えて健康に良いこと、壊れにくいので長く使えて、環境にも良いといった点が見直されているようです。中でも鋳鉄の鍋は厚みがしっかりあり、表面に凹凸があるので食材がこびりつきにくい。使用後は洗剤を使わずに洗って空だきし、油を塗っておけばよく、扱いやすいことで人気です。
鉄鍋の定番、すき焼きは家族みんなで囲んで楽しむのが今までのスタイルでしたが、こちらも個食の時代になってきたようです。今回紹介する及源鋳造「すき焼ぎょうざ兼用鍋」のサイズは直径16センチ。1~2人用となります。すき焼き鍋でこんな小さいサイズが売れ始めたのもここ最近のことです。
この鍋は鉄鍋餃子(ぎょうざ)にも最適。普通サイズの餃子なら1人前(5~6個)がちょうど焼けます。付属の木ぶたは、対流熱を閉じ込めて、食材にじっくり熱を伝えることができます。適度に蒸気が抜けて、余分な水分を吸収してくれるので、ふっくらと香ばしい餃子が出来上がります。
ソロキャンプにも使える分厚い鉄プレート
肉を焼くならドウシシャの「じゅーじゅー厚熱鉄焼プレート」をおすすめします。鉄プレートの焼き面は直径約10センチとコンパクトなのに、厚みは9ミリと十分。蓄熱性が高い鉄プレートなので、じっくりうまみを逃さずに肉本来の味わいを楽しめます。この鉄焼きプレートが2020年からシニア世代に大人気なんです。家で食事をする機会が増えたから、ちょっとぜいたくにのんびりと焼き肉を楽しみたいと思っている人が増えているのだと思います。まさに個食ならではの楽しみ方ができる道具ですね。
鉄プレートだけをキャンプなどに持っていくと、本格的なステーキも作れます。ソロキャンプにはまっている人にもおすすめです。肉のほか、プチトマトや厚揚げもおいしく焼けるのでぜひ試してみてください。
個食を極める酒席になる、チロリセット
私の思い描く大人の酒席がこれです。すず製のチロリでぬる燗にして、ちびちびとつまみを食べながら一人で楽しむ。サンシンの「卓上式ミニかんすけ・匠」は、すず製のチロリとお燗するための陶器、それらをまとめて運ぶための箱がそろったぜいたくなセット。本来は業務用ですが、最近は自宅用として選ぶ人が増えているようです。食事のおともに食卓に置くのもいいですが、これを持ってベランダやテラスなどで楽しんだり、プライベートルームやリビングで映画などを見ながらという楽しみ方もできます。
チロリはすずの街として知られる富山県高岡市で生産された純度100%のすず製、陶器は岐阜県の多治見産で、木箱は神奈川産とすべて国産。それぞれの完成度は高く、趣味として持つのも良いと思います。
すずは酒の口当たりをまろやかにしてくれる素材。焼酎のお湯割りなどにもおすすめします。
湯豆腐で一献ならコレ
居酒屋などの店舗に欠かせない料理道具の一つが、湯豆腐鍋です。遠藤商事の「ゆどうふ鍋」も業務用でしたが、自宅用としてじわじわと人気が出てきた商品。ちょうど一人分の豆腐(1丁)が入る大きさで、たれ用の容器が付いているのがうれしいですね。木ぶたも味があります。
前述のチロリセットとこの湯豆腐鍋で、しっぽりと酒席を楽しめるようなシニアになれたらいいですね。まだまだ私はその域に達しそうにありませんが。
少し前まではSNSで発信するために、おしゃれな食のスタイルを追求する人が多かった。しかし最近では発信よりも、自分がどれだけじっくり納得して食を楽しめるかという方向に傾いているように思います。その流れに乗って、時間を楽しむための料理道具が復活してきたようです。今こそ家でもアウトドアでも、憧れていた食の時間を実現するときなのではないでしょうか。前向きに、個食をとことん楽しんでみませんか。(談)
(文 広瀬敬代、写真 菊池くらげ)
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界