ディナー・ジャケット自体はといいますと、実にオーソドックスです。シングル前の1つボタン。ロール・カラー(ショール・カラー)デザイン。ボウタイは左右の先端がとがったポインテッド・エンドのクラブ・タイと、これまた伝統的な選択です。

この1つボタン、くだけたロール・カラーというデザインは、ディナー・ジャケットが部屋着を由来とするところに理由があります。上着の前は留まってさえいればいいので、ボタンは1つだけ。ロール・カラーはリラックスした雰囲気を醸し出します。

「ちょっと略式な感じ」を漂わす

イギリス人は、このディナー・ジャケットを「もっとも着こなしが難しい男の服」と見なしています。なぜならば礼装として着用しながらも、上品な「くつろぎ感」を漂わせなくてはならないからです。格式を保ちつつ「今晩はやや略式でしてね」とはにかむような空気感といえばいいでしょうか。「今宵(こよい)はドレス・アップの日」と堂々と胸を張っていればいい燕尾(えんび)服との大きな違いがここにあります。

ショーン・コネリーのボンドは礼装スタイルも決まっている。「007 ネバーセイネバーアゲイン」 =AP

ボンドが「気障な伝統派」を体現するファッションとしては、ディナージャケットはまさにうってつけのアイテムなのです。

ボンドの伝統的なタキシードスタイルとは対極にあるのが、シュルレアリスムの巨匠、サルバドール・ダリです。

ダリは多くのアーティストに影響を与えましたが、実はファッション・デザイナーとしての顔も持っていました。その創造性に最も強く感化されたのが、1930年代のパリで人気を集めたイタリア出身のファッション・デザイナー、エルザ・スキャパレリです。

スキャパレリは37年に有名な「シューハット」を発表しています。女性のハイヒールをひっくり返したような形の帽子だったので、「シューハット」。そもそものアイデアは、ダリでした。

SUITS OF THE YEAR 2021
Watch Special 2021
SPIRE
次のページ
ダリのディナー・ジャケットは紫色のベルベット
SUITS OF THE YEAR 2021
Watch Special 2021
Instagram