恐竜、宇宙、エボラ…コロナの他にも科学10大ニュース
新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)の陰に隠れてあまり目立たなかったが、今年も大きな科学的発見がたくさんあった。2020年が終わろうとしている今、あなたが見逃していたかもしれない重要な発見をナショジオが選んでお届けする。さっそく、振り返ってみよう。
【1】地球最古の物質、太陽誕生より古かった
太陽が誕生する何十億年も前、瀕死(ひんし)の恒星が宇宙にダスト(微粒子)を放出した。ダストの一部はほかの岩石に取り込まれて宇宙を漂い、1969年9月に明るく輝きながら地球に落下した。落下地点がオーストラリアのマーチソン村だったため、マーチソン隕石(いんせき)と呼ばれている。
マーチソン隕石に含まれる古い岩石を科学者が新たに分析したところ、46億~70億年前の恒星のダスト粒子が発見された。こうした初期の恒星のダスト粒子を含む隕石は全体の約5パーセントしかないと推定されているが、科学者たちは、銀河系の歴史を知るための貴重な手がかりを今後も探し続けたいとしている。
【2】ティラノサウルス類の孵化前の化石を初めて発見
2018年にカナダのアルバータ州にあるホースシューキャニオン累層で見つかった足の爪と、1983年に米モンタナ州ツーメディスン累層で見つかっていた下あごの骨は、どちらもふ化する前のティラノサウルスのものであることが明らかになった。
化石は7100万~7500万年前のもので、分析の結果、ティラノサウルス類は驚くほど小さく生まれていたことがわかった。長い尾をもっていたとみられ、大きさは成体よりもはるかに小さい。
【3】火星で謎の「脈動」が聞こえた
2018年11月、火星探査機インサイトが火星の鼓動を探るため、冷たく埃(ほこり)っぽい火星の地表に降り立った。インサイトは初期の発見のいくつかを地球に送信し、世界中の科学者を喜ばせると同時に困惑させた。なかでも興味深いのが火星の音だ。持続して聞こえるその小さな低音は、火星の地震に合わせて響く脈動のように聞こえる。
火星の脈動がどこで起きているかは不明だ。地球にも風のうなりや岸に打ち寄せる波などの振動がたくさんあるが、火星の脈動は地球の自然の脈動に比べて音程(ピッチ)が高い。インサイトの地下の地質学的構造が特定の音を増幅しているのかもしれないし、インサイト自体がノイズを発生させている可能性も考えられる。
【4】ベテルギウスが減光、爆発の前兆ではなかった
オリオン座の巨星ベテルギウスは、ふだんは空で最も明るく輝く星の1つだが、2019年12月に謎の減光が観測された。劇的な変化は科学者たちを騒然とさせ、ベテルギウスは生涯を終えつつあり、このあと超新星爆発を起こして満月よりも明るくなるのかもしれないと予想された。しかし今年8月、米航空宇宙局(NASA)はベテルギウスが突然暗くなった理由を、星の「げっぷ」だと説明した。
ハッブル宇宙望遠鏡による観測から、ベテルギウスが超高温のプラズマを外に向かって噴出するにともなって冷えた可能性が高いことが明らかになった。この過程で塵(ちり)の雲が形成され、ベテルギウスからの光を遮ったものと考えられる。この春、ベテルギウスは通常の明るさに戻った。ベテルギウスが華々しい最期を迎えるのはまだ先のようだ。
【5】鎧をまとった恐竜、「最後の食事」が明らかに
2011年、カナダのアルバータ州のオイルサンド炭鉱で働いていた重機オペレーターが、1億1000万年前の鎧をまとったノドサウルス類の恐竜の化石を発見した。見つかったのは恐竜の上半身だけだったが、皮骨板や装甲など、すべてがすばらしく良好な状態で保存されていた。今年になって、この恐竜の最後の食事が腹の中に保存されていたことが明らかになり、人々をさらに驚嘆させた。
胃の中で球状の塊になっていた植物の化石から、死ぬ数時間前に主に特定の種類のシダを食べていたことが明らかになった。シダと一緒に食べていた小枝の年輪から、この恐竜は夏に死んだ可能性が高いこともわかった。たった1回の食事から、1億年以上前に生きた恐竜の最期の姿を垣間見ることができたのだ。
【6】コンゴの大規模なエボラ流行が終息
2020年6月25日、世界保健機関(WHO)は、3480人以上が感染し、2300人近くが死亡した史上2番目に大規模なエボラウイルス病(エボラ出血熱)のアウトブレイク(集団感染)の終息を宣言した。
このアウトブレイクは、2018年8月にコンゴ民主共和国東部のキブ地域のクラスターから始まった。エボラウイルス病は、出血、発熱、腹痛、倦怠(けんたい)感、発疹など多くの症状を特徴とする出血熱で、感染した人や動物の血液や体液にじかに接触することで感染が拡大する。もともと不安定な状態にあったキブ地域は、政府や国際機関による感染拡大防止策への不信感が強く、当局は流行の封じ込めに苦戦していた。しかし、WHOのミシェル・ヤオ氏が率いる医療チームは、地域社会との連携を強化することで、30万人以上にワクチンを接種することに成功した。
【7】最古のホモ・エレクトスの頭骨が見つかる
南アフリカのヨハネスブルク北西部の岩石から見つかった頭骨の破片は、当初は古代のヒヒのものと思われた。しかし、オーストラリアのラ・トローブ大学の学生ジェシー・マーティン氏とアンジェリーン・リース氏は、頭骨の破片を組み立てていくうちに、初期人類ホモ・エレクトスのものであることに気づいた。
南アフリカでホモ・エレクトスの頭骨が見つかったのはこれが初めてだ。さらに、この頭骨は約200万年前のもので、ホモ・エレクトスの最古の化石でもある。この発見は、科学者たちが人類のもつれた系統図を解読し、私たちのいにしえの祖先がいつ、どこで生まれたのかを突き止めるのに役立つ。
【8】化石に恐竜のDNAか、染色体や核らしき構造
映画『ジュラシック・パーク』では、琥珀(こはく)の中に閉じ込められた古代の蚊の体内から恐竜の血液を抽出するだけで、恐竜のDNAを分離できた。私たちはまだこのSF作品を現実にするには程遠いが、研究者たちは化石化したDNAの研究について大きな飛躍を遂げた。7000万年以上前の保存状態の良い化石を調べていた研究チームが、細胞の輪郭、染色体(タンパク質とDNAの複合体)と思われる形、そしていくつかの細胞核(DNAを格納する構造物)を特定したのだ。
とはいえ化石細胞からDNAを抽出したわけではないので、これらの物質にもとのままのDNAが含まれているのか、それとも別の遺伝的副産物なのかはまだ確認できていない。しかし、化石化により保存された細かい部分が見えるのはワクワクする。
【9】人類の北米大陸到達、3万年前だった可能性
メキシコのチキウイテ洞窟の奥から見つかった石器を分析したところ、人類が3万年も前にアメリカ大陸に到達していた可能性があるとする論文が発表された。多くの考古学者は、人類がアメリカ大陸に最初に到達したのは、氷床が後退してアジアからの移動ルートが開かれた1万3500年前のことだったと考えていたため、この発見は激しい論争を引き起こした。
3万年前の木炭の破片とともにチキウイテ洞窟から見つかった石刃、尖頭器(槍先)、はく片石器は、氷河が解け始める前に人類がアメリカ大陸に到達していた可能性が高いことを示唆している。洞窟の調査から、当時のこの地域は今日よりもずっと涼しく、湿度が高く、緑が多かったと考えられ、人が住める環境だった可能性がある。しかし、まだ人骨は発見されていない。
【10】高さ500メートル超のサンゴの塔を発見
グレート・バリア・リーフの北側の海底の地図を作製していたオーストラリアの科学者チームが、高さ500メートル以上のサンゴの塔を発見した。この海域では8番目のサンゴの塔で、新たに発見されたのは120年ぶりだ。
こうした自然の構造物は、グレート・バリア・リーフに隣接する深海を行き交うカメやサメなどの重要な生息地となる。サンゴ礁を調査した研究チームは、さまざまな生物が暮らす生態系を発見。岩石、堆積物、いくつかの生物のサンプルを採取し、分析のために研究室に持ち帰った。このサンゴ礁の詳細はまだ不明だが、画像と動画を見た分類学者は、すでにいくつかの新種の魚を同定している。
(文 MAYA WEI-HAAS、訳 三枝小夜子、日経ナショナル ジオグラフィック社)
[ナショナル ジオグラフィック 2020年12月8日付の記事を再構成]
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