50代のひきこもり 脱出の道、親が真っ先にやるべきは中高年のひきこもり(3)

日経Gooday

対話は挨拶、頼み事などをきっかけにするといい。原画=(C)Michal Hubka-123RF、(C)rahul pathak-123RF
対話は挨拶、頼み事などをきっかけにするといい。原画=(C)Michal Hubka-123RF、(C)rahul pathak-123RF
日経Gooday(グッデイ)

「10年、20年と長い間ひきこもり生活を続けている」「自身の病気や親の介護を機にひきこもりになった」など、様々なケースがある中高年のひきこもり。前回記事(「50代ひきこもり 悪徳業者も…危険な『専門家』丸投げ」)では、ひきこもりは診断名ではないが、二次的な精神障害が生じるケースもあることや、治療・解決には第三者の介入が必要なことを紹介した。今回は、中高年のひきこもり支援のあるべき姿と親が取るべき対応について、筑波大学・医学医療系教授で精神科医の斎藤環さんに伺う。

ひきこもりは苦しい コロナ禍でようやく進んだ理解

――2020年は新型コロナウイルスの影響で、多くの人が自粛生活を余儀なくされました。この間、ひきこもり当事者にも何らかの影響はあったのでしょうか。

ひきこもり問題に長く関わってきた筑波大学・医学医療系教授で精神科医の斎藤環さん

斎藤さん 世界中が自粛生活に入り、ひきこもり当事者は楽になったかというと、そうでもなく、彼らの苦しい状況は相変わらずだったと感じています。自粛期間中は路上に人がいなかったので、世間体を気にせず外出しやすくなった人はいました。しかし、四六時中親がいるような状態では、家族間の摩擦も増え、以前より強いストレスを感じていたはずです。

私が一つだけよかったと思えるのは、今回、ひきこもり生活を大勢の人が体験したことです。実際のひきこもり対応でも、親御さんがひきこもっている子に対して、共感的に理解する・接することが非常に重要です。

「コロナうつ」という言葉がはやったように、行動が制限され、誰とも会えない状況は誰にとっても苦しいものです。あなたなら、何年もの間、そのような孤立状態に置かれることに耐えられるでしょうか? 多くの人が、当事者の置かれている状況をリアルに想像できたり、共感しやすくなったことは、唯一よかったことだと思います。

真っ先に取り組みたいのは、安心してひきこもれる関係づくり

――いわゆる8050問題ですが、高齢の親御さんにとってはすぐ目の前にある危機です。斎藤さんの経験から、家族が取り組むべき対処法を教えてください。

斎藤さん すぐに就労させよう、自立を促そうと思って、本人に受診や職探しを無理強いしてもうまくいきません。厚生労働省のガイドラインでは、ひきこもり問題への段階的対応が推奨されています。

ひきこもっている人の多くは、世間と関わることや治療を拒む人も多いため、最初の段階では、当事者に一番近い親が、精神科医や専門窓口に相談することになります。

ひきこもりそのものは病気ではありませんが、精神科も相談できる場所の一つです。ただ医療機関の場合、本人抜きで家族だけの相談を受け付けていないところもあるので、あらかじめ確認が必要ですし、まずは各都道府県の「ひきこもり地域支援センター」や「精神保健福祉センター」の窓口で相談するとよいでしょう。

親御さんは家族会などに参加することで、社会との接点を増やしていきます。同時に、適切な対応術を身に付け、本人と関わるようにします。

●ひきこもり地域支援センターの設置状況(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000515493.pdf

相談に行った段階から、そのことは本人にも伝えます。本人がやめてくれと言っても子の心配をするのは親として当然のことなので、親のわがままで押し切っても結構。相談内容もそのまま伝えてかまいません。

そうしたことを続けているうちに、本人も少しずつ変化してきて、受診につながり、個人療法、次いで集団療法(当事者グループが集まる場所でデイケアや自助グループへの参加など)へと進みます。ここまでくれば、ソーシャルワーク(就労など具体的な社会参加の試行段階)も可能になっていきます。こうした段階的対応が本来望ましい支援の方法です。

――親の「適切な対応術」とはどのようなことでしょうか。

斎藤さん 共感的に接すること、対話を続けること、そして、高齢化問題に対しては、恥や世間体を恐れず、障害者年金や生活保護の受給も視野に入れて、親と子でお金の話をきちんとしておくことです。言ってみれば、「本人が安心してひきこもれる関係づくり」をすることが、親御さんの役目です。

こう言うと、「安心させるだって? 逆効果ではないのか」と思われるかもしれません。ですが、多くの家族はそれと逆のことをして失敗してきています。これまでも「お金がなくなったらどうするのか」「親が死んだら生きていけないぞ」と、本人の不安をあおってきていないでしょうか。しかし、本人の気持ちとすれば、最初はひたすら「放っておいてほしい」「構わないで」に尽きます。誰よりも本人自身が、恥じているのです。

現代人にとって働きたいと思うのは、基本的に「他者から尊敬されたい」という承認欲求のためです。マズローの欲求段階説では、生理的欲求(食べていけることなど)、安全欲求(批判・非難されないなど)、関係欲求(孤立しない・家族関係の安定)を、満たしてあげなければ、承認欲求(就労動機)につながりません。だからこそ、「安心してひきこもれる関係」が必要なのです。

マズローの欲求段階説

人間の欲求は、1から5の順に生じる。1~3を満たさなければ4の承認欲求にはつながらない
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