TikTokで人気の景井ひな バズる動画の作り方

世界的に人気の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」。学生時代に趣味で始めた投稿から人気に火がつき、投稿開始1年4カ月でTikTokフォロワー数・女性日本一となった景井ひなさん(21歳)。ヒットする動画作りの秘訣やTikTokの魅力のほか、厳しい両親を説得して夢を追いかけた決意の背景、毎日19時投稿を続けるという制作の舞台裏を聞きました。
日経doors編集部(以下、――) 2020年12月1日時点でTikTokフォロワー数は510万人を突破。毎日投稿される「クスッと笑えて楽しめる」動画コンテンツはもちろん、独自のファッションセンスが注目を集め、東京ガールズコレクション(TGC)への出演、スポーツアパレルブランドのアンバサダーなど活躍の幅を広げています。TikTokを始めたきっかけは?
景井ひなさん(以下、景井) 周りの友達がみんなTikTokをやっていて、1年半くらい前に、私も始めたんです。その時、友達に撮ってもらった動画がたまたまバズって。最初は「友達と一緒に撮るのが楽しい」というきっかけで始めたので、特に狙いもなかったですし、流行に乗っかったという感覚でした。
――趣味で始めた投稿が、開始10日間でフォロワー数10万人を達成。バズる動画って、どのように作っていくのでしょうか?
景井 TikTok投稿を始めた初期の頃、一気にフォロワーが増えた動画が2つあります。1つが、すっぴんの状態からメイク完成のメリハリ顔に変わる動画(*1)。当時のフォロワーは本当に少なかったのですが、一気に8000人くらいフォロワー数が増えました。2回目に反響があったのが、当時はやっていたムーブカメラを使った動画。撮影者のカメラワークで、私の動きに合わせて画面が回転するように動くんです。この動画でフォロワー数が数万人単位で増えていき、自分でも驚きました(*2)。
投稿初期に再生数・フォロワーが伸びるきっかけとなった動画。当初は、TikTokの中ではやっているものを後から追いかけて流行に乗っていた
当時はやっていたムーブカメラを使った特殊な撮影方法で、一気にフォロワー数が数万人に躍進
――当時、卒業後の就職先が決まっていた状況から、進路を芸能界に方向転換したのは大きな決断でしたね。
景井 小さい頃から洋服やデザインが好きで、芸能界に憧れる気持ちはありましたが、熊本県に住んでいる私の両親からも「堅実な職業じゃないとダメだ」と言われていました。高校卒業時に夢は諦め、ウエディング業界への就職を目指して大阪の専門学校に通ったんです。そんな時にTikTokがバズって、いろいろな事務所からオファーをいただいて。当時地元のウエディング関連ドレスショップへの内定も決まっていましたが、「やっぱり夢を追いかけたい」と思い両親を説得。「だったら期限を設ける。2年間頑張ってみてダメだったら帰ってくるように」と親から言われて、条件付きでチャレンジしました。
知名度よりも価値観を優先して、所属事務所を選んだ
――30社以上のスカウトがあった中、どのような視点で現在の事務所(ホリプロデジタルエンターテインメント)を選んだのでしょうか。
景井 オファーをいただいた事務所にはすべて足を運び、お話を聞きました。そんな中でも、一番私の意見を尊重してくれたのが、今所属しているホリプロデジタルエンターテインメントです。
譲れない希望が2つあって、1つはTikTokerとしての私を生み出してくれたTikTokは絶対に続けたいということと、もう1つは女優を目指したいということ。だから「まず女優として演技にしっかり取り組み、ちゃんと名前を挙げられるようになってからYouTubeはやりたいです」と伝えたんです。そうしたら、「もちろんそれで大丈夫。逆にそっちのほうがいいと思う」と、マネジャーさんも言ってくれたので迷いなく決めました。

――組織の知名度や大きさよりも、やりたいことや価値観を最優先に決断したのですね。厳格なご両親はどのように説得したのでしょう。
景井 もともと親は芸能界に関心がないのですが、その詳しくない親でも知っているような大きい事務所もあったので、それで安心してくれたみたいです。今では、私が制作に関わったグッズ情報をまめにチェックしてくれていたり、私が投稿する毎日のSNS投稿は全部見てくれていたり、応援してくれています。夜にTikTok投稿をすると、すぐに「今日の動画、面白かったよ」とか感想を送ってくれて(笑)。離れていてもSNSでつながっている感じがします。
TikTokは有名になるチャンスが多いSNS
――TikTokでの人気が芸能界デビューのきっかけとなりました。TikTokの魅力を教えてください。
景井 TikTok動画は多くが1投稿15秒で、長くても1分程度。気軽に動画を見ることができるので、すき間時間のいい暇つぶしになるんです。例えば、集合場所に早く着いたからTikTokを見て待っていようとか。ユーザーが日々「いいね」をした動画から、好みにあった動画が自動でタイムラインのおすすめ欄に出てくるので、そこで興味を持ったり好みの人を見つけてファンになったり、他のSNS以上に拡散力があるのが特長です。検索をしなくてもスワイプしながら見ていくだけで好きな動画が見つかるので、比較的バズりやすく、有名になるチャンスが多いと思います。多数の情報が人の目に入りやすい分、興味ない動画はどんどん画面をスクロールされてしまいます。まだフォローしていない人にも興味を持って最後まで見てもらうために、出だしの1、2秒でいかに心をつかむかということはすごく考えていますね。
――投稿を始めてから約1年半、毎日投稿を続けています。1本の動画をつくるのにどれくらい時間がかかるものなのでしょうか。
景井 私の場合は1本を作るのにすごい時間がかかっちゃうんです。今日も明け方まで動画の制作をしていました。1本15秒の動画を作るのに、早くて1時間くらい。そこで収まらないと、3時間、6時間、9時間、半日……というように3時間単位で延びていく感じです。でも、TikTokはアプリ内にステッカー、効果音、アフレコなどのエフェクト機能が充実していて、初心者でもプロの手を借りず比較的簡単に面白い動画作りができます。
毎日必ず19時に手動操作で投稿するのが日課です。学生のファンの方が多いので、部活から帰ったり、好きなテレビを見る前のすき間時間に一番見てもらえたりする時間帯なんです。TikTokには予約投稿機能がないので、19時前後はできるだけ通信環境の良い場所にいるようにしたり、マネジャーさんにお願いして仕事を調整してもらったり。私が投稿できない時は、投稿ボタンを押すだけの状態に準備してケータイを渡し、19時の投稿だけマネジャーさんにお願いすることもありますね。
はやりの海外動画がネタのベースに 発信のタイミングが命
――約1年半毎日投稿を続けていく中で、バズる・バズらないの肌感覚は身に付きましたか?
景井 だいぶ身に付きました。それでも、アクセスが伸びない時があると、「これは違った」とか「タイミングを誤った」と理由を分析したりして、日々トライアル&エラーですね。ネタは、基本的に海外ではやりネタを探すことが多いです。フォロワーさんの2割くらいは海外ユーザーなので、海外に向けても発信したいと思っています。海外の流行をヒントに、国内外どちらの視点からも面白いと感じてもらえるアレンジを加えています。
逆に、これってどうだろう?と思っていたのに、思わぬ反響があった動画もあります。例えば、予想以上にバズったのが、「棺桶(かんおけ)ダンス」という海外のTikTokではやっていた音源のリズムに合わせて、ケータイのボタンを人さし指で押していく動画です(*3)。
動画投稿後、1億回超の再生回数を記録
私はいつも1時間以上の時間をかけて動画を撮るので、シンプルな構成で早く撮れたときは不安しかなくて。このときも「短時間で簡単に撮れた動画がバズるかな……」と思いながら投稿したんですが、棺桶ダンスの音楽をケータイのプッシュ音で奏でているように見えるとコメント欄が盛り上がりました。
――バズる動画の要素としては、「どうやっているんだろう?」という興味や「面白い」という意外性が大事なんですか?
景井 基本的にバズる動画の王道って、マジックのように種や仕掛けが分からないものだったり、自分では絶対にやらないくらい手間がかかっている動画だったり。例えば、私の動画ですと、「連続投稿ピンポン玉チャレンジ」っていう、複数並べたフライパンの底にピンポン玉を当て、バウンドさせながらグラスの中に入れるという6回シリーズのコンテンツがあります(*4)。制作に毎回丸1日かかるんです。見ている人は大変だから自分ではやらないけれど、結果が気になるから見てくれる。チャレンジの難易度が毎回上がる最後の6回目に、オチになるようなハプニングがあって反響がありました(*5)。
複数の鍋を裏返してランダムに置き、ピンポン玉を鍋底に当ててバウンドさせながらグラスに入れるチャレンジ
2回目以降徐々に配置や難易度が変わり、6回目のチャレンジ。動画の最後にはオチ付き
シリーズものは一気に投稿するのではなく、日にちの間隔を置いて投稿します。どれだけ人気のシリーズでも、頻繁にネタを出すと飽きられてしまうんです。3~5個のストック動画を常に準備していますが、1日仕事が入っていて撮る時間がない日には、できる日にあらかじめ多めに撮りだめをするようにしています。
それでも難しいのが、TikTokって流行の速度がすごく速くて2~3日で傾向が変わっちゃうんですよね。2~3日後まだはやってはいても、その時点で投稿するのでは既に遅く、乗り遅れちゃうとバズらないことも多い。だから、ストックしているうちにボツになったストック動画もたくさんあります。話題になりそうなネタを的確にキャッチする感覚と、投稿のタイミング、旬の海外ネタを日本人向けにアレンジするさじ加減が大切です。

(取材・文 加藤京子=日経doors編集部、写真 景井さん提供)
[日経doors 2020年10月14日付の掲載記事を基に再構成]
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